静まり返った部屋の中、夕日と呼ばれるようになった太陽の光が、
天への道となって入り込む。その光は、怪我だらけになり高熱でうな
される意識を取り戻したばかりのクリフを、やさしく死後の世界へと導
いてる。ように見える。

 とりあえず自分が今置かれている状況を把握してから、上半身を起
こそうとする。んが、体は動かない。脳みそでは、精一杯体を動かそ
うとしているのに、体は別物のように反応は無い。

「目を覚ましたようね。」

 聞きなれたマリアの声がクリフの耳に入る。その声にクリフは少しの
安心すると同時に少しの不安が何故か湧き上がる。クリフは返事をし
ようとするが、やはり声は出なかった。

「あ、それから、ちゃんとおとなしくしているように強力な痺れ薬を飲ま
せたから心配しないで。」

 と、マリアは言った。“余計心配だ!”と、クリフは思った。

「クリフが目を覚ましたって!?」

 フェイトの声が廊下のあたりから聞こえてきた。それと同時に複数の
足音がドカドカとこの部屋の中へと入ってくる。みんなクリフが存在する
この部屋へと集まった。

「そうか、よかった。…僕が53回もキスしたおかげだね。」

 フェイトがクリフに抱きつき、頬をすりすりとこすり合わせながら言う。
“いや待て!”と、クリフは言おうとしたが、声にはならなかった。それか
ら、みんな順番ですりすりした。

「それじゃあ、お薬を飲ませましょう。」

 マリアがそう言うと、ポケットから袋に入った粉薬を取り出した。そして、
それをクリフの口へと水で飲まそうとする。

「待て。」

 薬を飲まそうとするマリアを、アルベルは止めた。

「何?」

「お前、分かっているのかその薬の不味さを…」

 アルベルは言う。その足はがたぶるしている。あのアルベルでさえビビ
ってしまうほど、不味い薬のようだ。

「…まあ、飲んだことは無いけど味覚にいいものとはとうてい思えない感
じね。おえっ」

 マリアは袋の中のにおいを手で仰いで嗅いでみた。それだけで、吐き
気をもよおすほどのシロモノである。

「だろう?病気で苦しんでいるやつをさらに苦しめるつもりか?」

「そうね…。それも酷い話だわ……。じゃあ、どうする?」

 みんなで腕を組んで考え始めた。どうすればこの薬の不味さを和らげ
ることが出来るのだろう。どうすればクリフを苦しませずにこの薬を飲ま
せることが出来るのだろう。

 考え始めて10分後くらい。ソフィアが何か考え付いたらしい。そして、
みんなは何故か小声になって話し始めた。何を言っているのか分から
ない小声が、クリフの不安をさらに掻き立てる。

「じゃあ決まりね。」


……
………

ぺっぺっぺっぺっぺっ
ぺっぺっぺっぺっぺっ

 気になる音。クリフはひとつのイヤな予感を頭の中で作り出し、全身
全霊の力を振り絞って、視線をみんなの方へと移した。
 そこには、予想通りの光景が繰り広げられていた。ひとつの紙コップ
をみんなで囲んで、ぺっぺっと、唾を注ぎ込んでいた。きっと、それを飲
まされるのだろう……。

ぺっぺっぺっぺっぺっ
ぺっぺっぺっぺっぺっぷしゅっ

「…チッ、鼻水が入りやがった…」

「気にしなくてもいいわ。」

 “気にするっつーの!”と、クリフは言いたかったが、音声にはなら
なかった。そして、15分が経った。

「オイラ……もう限界…ハァハァ」

「わたしも…もう出ません…ハァハァ」

 どうやら15分も唾を放出していたため、みんな唾切れのようだ。

「けど、これだけじゃ足りない気がするわ…」

「なら…僕のスペ」

 ドキュん。フェイトが何かを言おうとする途中に、マリアは素早く銃
を抜いて、彼を銃撃した。結局、足りない分は醤油で補うことにした。

「さあ、これを飲んで。」

 マリアがクリフのこめかみに銃口を当てながら、クリフの口へ粉薬
をさらりと入れ、紙コップの中身をゆっくりと流し込んだ。

 不味い薬、唾液、鼻水、醤油。それらが混ざり合って、この世のも
のとは思えないような味と感触がクリフの口の中で展開される。
クリフは、その凄まじさにより、全身痙攣を起こした。






 1時間すると、痙攣はおさまった。けれど、熱は高くなるばかりで息
もどんどん苦しそうに荒くなっていく。
 そして、みんなはお約束のようにクリフに抱きついた。彼を蝕む悪
いバイキンを自分にうつせば、風邪は治るだろう。最後の手段だっ
た。


 もっと早く風邪が治るようにと、強く強く抱きついた。
 クリフは窒息しそうになった。
 もっと早く風邪がうつるようにと、みんなですりすりした。
 クリフはいやがった。
 もっと早く風邪が治るようにと、彼を裸にしてみんなで全身舐めま
 わした。
 クリフは鳥肌が立った………



 二日後、すっかりとクリフは回復した。…みんなに感謝した。
しかし、クリフが回復すると同時に、みんなはまるで風に吹かれた
ようにバタバタと倒れていった。みんな高熱だった。

 当然、クリフから風邪をもらったのだから倒れてしまう。
とりあえず、クリフはロジャーを小児科に診せればいいのか獣医
に診せればいいのか非常に悩んだ。
















☆ ★ ★ ★ ☆



「…クリフぅ…僕、この絵本を読んでほしいんだけど…ゲホゲホ」
「私はこの絵本を…ゲホゲホ」
「オイラは…ゲホゴホ…この絵本だ…」
「あたしは……こ、この絵本が…げほげほ」
「わたしは…この絵本…げほほ」
「アタシは〜この絵本がいい〜…げほげほ」
「俺は…この絵本を…げぼぼぼぼ」

「そんないっぺんに読めるか!!大体オレはお前らの看病で手一杯
なんだぞ!」

「クリフ……げほほ…誰のおかげで元気にしていられるんだい?」

「………………むかしむかし、あるところに……」

「おげえーーーーーーーーーーーー」

「おいアルベル!吐くな!大丈夫か!?……あ〜、おじいさんとお
ばあさんがいました……」




 みんなの看病で走り回るクリフ。
みんなは、クリフに看病してもらえるということで、とってもとっても
幸せそうな顔で苦しんでいた。










おしまい


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長編の途中で短編が書きたくなるときも。
絵本ネタがメイン…?