LUNA・第三話
〜炎の中に〜




 みんなで、クリフの体を火葬する場所へと運ぶ為持ち上げた。クリフの
重みを自分の体で感じる。その重さがあるから、みんなはまだ彼の死を
受け入れることが出来ない。

 体温はまだ残っている。”こんなにも温かい…”みんなクリフの股の間
の膨らみに手を当てながらそう思った。
 やがて時間が経てば、その体温も消失してしまうというのに……。










 そして、重い足をがんばって動かして、クリフを火葬する場所であるアミ
ーナの家の花畑へとやってきた。
 そこに咲いている花たちは、主人がもうこの世にはいないことも知らな
いで、主人が手入れをしてくれるのを待っているかのように、凛々とそこ
に咲いている。

 みんなはそんな花たちを、何の惜しみも無くドカドカと踏み潰して、花畑
のど真ん中へと、そっとクリフの体を置いた。

「クリフ…、ほんとうに燃やすからな。いいのかよ…。」

 フェイトが下に俯いて言う。

「やればいい…。アイツのことだ、きっと熱さで起き上がる。」

 アルベルはフェイトにそう言った。フェイトはまだ何か出来ないようで、
とりあえずアルベルを殴ってみた。そんなフェイトの真似をしてみんなも
一発ずつ殴ってみた。アルベルは何故自分が殴られるのか分からなか
った。もちろん、意味は無い。


 みんなにぐちゃぐちゃに踏み潰された花畑の花たちは、たとえその体
が地にひれ伏そうとも、もう一度主人に水をかけてもらうまで枯れるわけ
にはいかないと、曲がってしまった茎をもう一度立て直した。

 みんなは、起き上がった花たちを再び踏み潰しながら、クリフの傍を離
れていき、この花畑の外にでた。
 そして、みんなはそれぞれマッチを手に持って火をつけ、何度踏み潰さ
れても起き上がろうとする花たちに火を放った。

「クリフ……」

 誰が呟いた言葉なのか分からない。
火は花畑全体に広がり炎となる。ロジャーとネルはその炎の中へ、さつ
まいもをアルミホイルに包んで、全員分投げ入れた。

 みんなで、炎に包まれる花畑を見ている。いつの間にか、ランカーやス
ティングやマリエッタやリーベルの姿もある。

 あの炎の中のどの辺にクリフはいるんだろう。
体があたたかい。このあたたかさは、クリフがまだ近くに居るからなのだ
ろうか、それともこの炎の熱さなのだろうか、それすらみんなは判断出来
ずにいる。


 目の前に広がる絶望を、絶望だと認識できない。


 誰も、涙を流しているものはいなかった。
クォークのメンバーは、その組織の性質上、誰がいつ死んでもおかしく
ない状況にあったため、クリフの死を受け止めても、涙を流すことは許
されないと自分に言い聞かせているのだろう。
 みんなの方はまだ、クリフは生きているんだと心からそう思っているの
か、それとも、あまりに深すぎる悲しみから精神を守る為、自己防衛本
能が働いて、悲しいという感情を制御しているのか…。

「クリフ…。さすがにじらしすぎだよ。」
「まったく同感だね。」

 どうやら、生きていると思い込んでるほうらしい。

 花畑を覆い続ける炎が、やがてとなりのおばちゃんの家に燃え移り、
ペターニ全体へと燃え広がっていく。酒場が燃え、宿屋が燃え、職人ギ
ルドが燃えていく。街中には炎と逃げ回る人々で溢れかえっている。
 二度目のペターニ崩壊。これら全ての弁償代の請求書は、全額ネル
の元へ送られてくることを本人はまだ知らない。

 炎に包まれていくペターニの街を全く気にすることも無く、もうどの辺
が花畑だったのか分からなくなっていく花畑を、ずっと見つめていた。

「それでは、私達はこれで失礼します。」

 ミラージュがそう言った。

「え、もう帰っちゃうんですか?」

「はい。私達にはクリフの身に何かあったときに、そのすべての仕事を
引き継ぐように言われてますから。」

 ミラージュがそう言い、みんなに背を向けて帰ろうとする。それに続い
てランカーもスティングもマリエッタもリーベルも。

「ちょっと待ってくれないかい。」

 ネルはそんなクォークの人たちを引き止めた。そしてネルは炎の中
に手を突っ込み、ホカホカになったさつまいもを取り出した。

「よかったら、みんなで食べてくれないかい?」

 ネルは、ここには居ないクォークの人たちの分も含めたやきいもを、
ミラージュに手渡した。まるで田舎のおばちゃんみたいだった。

「ありがとうございます。みんなで美味しくいただくことにします。」

 そして、クォークの人達はやきいもをそれぞれ美味しそうに頬張り
ながら、光に包まれディプロへと帰還していった。
 ネルは、クォークの人達に渡して、減ってしまった分のさつまいもを
炎の中につぎたした。



 そして、夜が明けた。
街中に広がっていた炎は全て鎮火していた。



 すでにペターニのどの建造物も燃え尽きて、その原型はとどめて
はいなかった。花畑があった場所にはクリフの姿を見つけることは
出来なかった。そして、ペターニ中を探し回ったが、彼は何処にも居
なかった。

”とうとうテレポーションまで体得したか……”
みんなが思ったことだった。

 すっかり姿の変わったペターニのど真ん中で、みんなはやきいも
を食べながら、ただ、立ち尽くしていた。スフレは喉にいもを詰まら
せて苦しそうだった。

 それから何分かが経過して、みんなやきいもを食べ終えた頃だ
った。何の会話を交わすことなく、みんなそれぞれ何処かへ行こう
としていた。それぞれ、クリフの帰りを待ちわびながら。
 そして、一時的にこのメンバーは解散した。



 光を失った者たちは何処へ行くんだろう。





つづく(第四話へ)




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セリフがやたら少ない…。
あ、クリフはもう死んでますよ。
でも、後にクリフサイドの話も出てきます。