LUNA・第四話
〜耳をすませば〜





 あれから、クリフがいなくなってから、二週間ほどの時間が経っただろう。
ネルはシランド城の自室でずっとゴロゴロしていた。行く場所といえば、トイ
レくらいなものである。風呂にも入ってはおらず、さらさらだった髪も、油が
のってテカテカにべたついている。もちろん、他の仲間達の誰とも、顔を合
わせてはいない。

「あいつ、何処へ消えたのさ……。」

 ベッドにゴロンと寝転がって、クリフに貰ったカエルしゃんを腕に抱きなが
ら、クリフの顔を思い出す。
 そして、部屋のドアに目を向け、”ネル。飯はまだか?””ネル。卓球でも
やんねえか?”とか、クリフがそう言って、この部屋に入ってくるのをずっと
待っていた。

 けど、そのドアを開けるのは、ジュースを買ってきてくださいと言う部下か、
仕事しろよと言うラッセルか、借金取りのうちのどれかだった。

 本を読もうと本棚を見てみるが、どれも既に読んだ少女漫画や少女小説
で埋め尽くされ、読む気も沈んでいった。
 何をしてもつまらない。何もする気が起きない。何をすればいいかわから
ない。頭がかゆい。せんべえの枚数が次々と減っていき、透明な時間だけ
が流れていく。


 この、虚しさは何なのだろう。
何か、心の中にあった何かが消えてしまったような。


 その答えをネルは見つけられずにいた。いや、彼女自身その答えを知る
のを拒絶しているのだろう。そして、最後になったせんべえを、ボリボリと噛
み砕いて、食べ終えた。
 そして、そっと目を閉じた…。






……
………
…………
……………






 肌寒い朝。朝日はまだ眠っている頃。
私は、机に頬をついて転寝していたときだった。
突然、”ガシャン”と、窓を割って、私の部屋に拳大の石が入ってきた。 
なんだろうと思って、窓の外を見てみると。

「すげえ。奇跡だぜ。本当に出てきやがった。」

 自転車にまたがり、白い息を吐いてそう言う、クリフの姿があった。

「あたりまえじゃないか!こんな石投げて気づかないわけないだろ?」

 私はクリフの投げた石を、彼のほうへと投げ返した。その石が、クリフ
の頭に当たってしまい、彼は痛そうに悶えていた。

「とりあえず来いよ。お前に見せたいもんがあんだよ。」

クリフが頭を抑えながら、私のほうを見て窓の外からそう言った。
私は仕方ないと思いながら、窓から外へ出て、彼のところへ行った。

「はやく乗れよ。時間がねえんだ。」

 と、クリフに言われるまま私は自転車の後ろの荷台に乗った。自転車
がすいすいと動き出して、朝の風を身に受けながら何処かへと向かう。
 彼の背中が目の前にあり、そこに頬をくっつけてみれば温かくて気持
ちよかった。
 そんなことよりも、この自転車は時速140qは出ているわ、コーナー
でのブレーキングもギリギリの所で行い、チャリドリしていくので、相当
怖ろしかった。

「と、ところで見せたいものってなんなのさ?」
 クリフの背中を嘔吐物で汚しながら、私はクリフに聞いた。
「まあ、もう少し待ってろ。すぐに着くからよ。」

 もうすぐ、角度75°はあるような急な上り坂に差し掛かろうとしてい
る。そこでクリフはきっと自転車をこぐのが辛くなり、私は”降りようか?”
と彼に言うが、彼は”お前を乗せてこの坂道を登るって決めたんだよ!”
と言い、私は”いつまでもお荷物はゴメンだね”と言って、彼のこぐ自転
車を押してあげる。予定だけどさ。

 そして、その角度75°の坂へと差し掛かった。私はドキドキしながら
クリフが辛くなるのを待った。
 が、この男はまるで平地のようにスイスイと角度75°の坂道を登っ
ていった。………ケダモノめ。

 そして、クリフは自転車を止めた。
小高い丘の上。そこからは、シランドの街全体を見渡せた。

「着いたぜ。」

「ここは?」

「オレだけが知ってる秘密の場所だ。ちなみに、人に教えんのはお前
が初めてだ。」

 私は、お前がはじめてだという彼の言葉に心臓が高鳴るのを覚える。
そして、クリフは続けた。

「ここからみえる日の出はすんげー綺麗なんだぜ。お前にも一回見せ
たいと思ってな。」

 すると、ちょうど朝日が昇ってきた。クリフが言ったとおり、すんげー
綺麗だった。

「ネル……」

 名を呼ぶクリフの方を見ると、彼は珍しく真剣な表情で私の方を見
ていた。

「オレはもう少ししたら、オレの星へと帰る。」

「わかってるさ。けど、あたしはあんたをずっとまっている…」

「そうか。それで、オレがまたここへ帰ってきたときにはよ…。オレと、
結婚してくれねえか?」

「クリフ……」

バンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバン
バンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバン!!!!

 突然、ネルの耳元でフライパンを叩くような轟音がして、ネルをあり
もしない妄想の世界から現実へと連れ戻した。
 その方を向けば、エレナが本当にフライパンを持ってバンバンと鳴
らしていた。

「ネ〜ル〜。あなた、また変な妄想してたでしょ。よだれを垂らして変
な笑いを浮べてたわよ。」

 エレナがネルにそう言う。

「違いますよエレナ博士。あたしは思い出に耽っていただけです。」

「あなたのは、思い出に耽っているんじゃなくて、思い出を勝手に作
り出して、妄想しているだけなの。」

 エレナが呆れたような顔になって言う。

「で、どうかされたのですか?」

 ネルはベッドから起き上がり、カエルしゃんを腕に抱えたまま問う。

「今日はあなたに頼みごとがあって来たのよ。」

「はい。何でしょう。」

「庭で私が育ててた、おいしいとうもろこしが実ってたからアルちゃん
に届けてほしいの。」

「はい。わかりました。」

 ネルは、少しめんどくさいと思いながら、エレナは上司だし、断る理
由も見当たらなかったので、とうもろこしをアーリグリフへ無事届ける
という任務を授かった。
 そして、エレナはとうもろこし1本をネルに手渡した。

「それよりも、あなた本当に死ぬほど臭いから、お風呂に入ってから
行ってちょーだい。」


 エレナにそう言われ、ネルは二週間ぶりにお風呂に入った。すっき
りして少しは気分が晴れたような気がして、頭のかゆみも治まった。
 そして、背中にカエルしゃんを縛りつけ、手にとうもろこし1本を持っ
て、アーリグリフへと向かう為、シランドを後にした。





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とりあえず、乙女なネルを書きたかっただけ…。
ネルっちはきっと耳をすませばでも見ていたんでしょう…