LUNA・第六話
〜置き去りの時間が今〜




 久々に7人が集まったので、ネルはみんなにこの二週間、何をしていた
のかを聞いてみた。
 フェイトはずっと高級ブランド品のパチモンを製造していたらしく、マリア
は工房に篭ってワラ人形を何百体も作っていたらしく、スフレはランパブで
働いていたらしく、ロジャーはムービースターをやっていたらしい。

「ところで、みんなこれからどうするの?」

 マリアが口を開いてみんなに問う。しかし、その問いに答える者は誰も
おらず、みんな口を閉じて考え込むように下を向いて沈黙を作り上げて
いるだけである。
 みんなの脳内では、オーナー殺害計画だとかそんなような目的が断片
的に思い浮かんでは消えていき、それよりもずっともっと大切だったこと
を思い出そうとしている。しかし、それを思い出すことが出来ず、無駄に
時間が流れていくだけであった。

「オイラ…腹減っちまった……」

 ロジャーが力無さげにお腹を手で押さえて言った。それに続いてみん
なのお腹も”グ〜”と、共鳴した。

「そうね…。確かにお腹空いたわね。」

「だったら、そこでアイスクリームでも食うか?」

 アルベルは、街の入り口に出ている屋台を指差した。

「だからこんなクソ寒いのにそんなもん食べませんよ!」

 そんなふざけたことを本気で言うアルベルに対して、ソフィアは杖の
先っちょでアルベルの××を突付いた。アルベルは相当痛そうにして
いる。
 それから、約三時間ほどみんなで何を食べるのか相談して、あたた
かいうどんでも食べることになった。













 酒場へうどんを食べに行く間の道のりを、天ぷらうどんを食べたい
とか、月見うどんを食べたいとか、アルゼイの冠は意味不明だとか、
そんな会話を交わしながら、アーリグリフの侘しい裏路地を歩いてい
た。

「あ、みんな見て見て〜!!」

 みんなよりも30メートルほど先を歩いていたスフレが立ち止まり、
何処かを指差してみんなに言う。みんなはスフレのところまで歩いて
彼女が指差す場所を見た。そこには、一輪の1メートルほどのひま
わりが咲いていた。

「これは…、ひまわり?」

「珍しいわね。こんな季節にひまわりが咲いているなんて。」

 みんなで、そのひまわりを輪になって囲んだ。
そのひまわりは、花弁や葉や茎に雪が積もって白くなっており、そ
の雪の重さで茎が少しだけ曲がっている。けれど、決して折れるこ
とは無く、このクソ寒い気候の中で、その花は色あせることなく、強
く強く咲いていた。

「綺麗ですね……。」

 ソフィアがそう言って、花弁についた雪を払い落とす。すると、雪
から開放された花弁が、光輝いていた。

 ”温かい……”

 みんなそう感じた。雪が空から降り、冷たい風に舞って体にぴと
ぴとくっ付いて寒いはずなのに、この花を見ていると、心の中だけ
は、たこやきの様にあたたかい。

「なあアルベル。何泣いてるんだよ。キモイぞ。」

 フェイトが、ちらりとアルベルを見て、鼻水を垂らしながら言った。

「フン。テメェだって泣いてるじゃねえか、阿呆。」

 アルベルも鼻水を垂らしながらフェイトを見て言った。フェイトは
自分の頬を指でなぞってみると、確かにそこに液体が流れている
のを感じた。鼻水ではない。
 そして二人は他のみんなを見回してみると、他のみんなも自分
達と同じように、そこに咲くひまわりを鼻水を流しながらただじっと
見つめ、大粒の涙を両の瞳からボタボタと流している。





「クリフ……」





 ネルの口が、その名前を外の世界に解き放った。大切なその名
前を。
 心の中で何かを失くして、それが何なのか分からなかった答えが
やっと分かった。それが今まで分からなかったのは…、その答えが
近くに存在しなかったから。そして今、そこに咲いている花に、大好
きな人のイメージが重なり合い、答えを映し出している。

「クリフ……」
「クリフさん……」
「クリフ……」
「クリフちゃん…」
「クリフ……」
「バカチン……」

 みんなの心の中で、二週間ほど閉じ込められていた名前が放たれ
て、大切な想いが次々と溢れ出してみんなを包み込んだ。
 あのとき…、クリフが炎に包まれ空へ昇っていったあのときに、流す
ことの無かった涙が、とめどなく流れだしていく。
 クリフがここに居ないから、こんな花から温かさを感じ取ってしまう。
もし彼がここに居るのなら、彼の温かさでこんな花の温かさなんて感
じないはずなのに…。
……今は、彼は、もう何処にも居ないから。
 そして、やっとみんなは自分の心にクリフの死を受け入れ、認める
ことが出来た。












 あの日から、止まっていた時間が動き始めた。













「会いたい……。クリフに……会いたい………。」

 マリアが涙声で言った。
けど、それがどんなに不可能な現実で、叶わない願いだということを
みんなもマリアも充分過ぎるくらい分かっている。

「あたしだって……会いたいさ……。けど…、マリア…」

 時折そこを通る通行人に変な目で見られながら、涙声でネルが言
う。…わかっている。それがどんなに馬鹿げた願いなのかを。けど、
それを願わずにはいられない自分が、ここに在る。




 大好きな人に会いたいという願いは、誰だって願うことだから。




 ピロリピロリ〜ピロロロ〜ン♪
それから10分くらい経った頃、突然とソフィアの通信機のダサい着
メロが鳴り出した。そして、ソフィアはポケットから通信機を取り出し
て、通話ボタンをポチッと押した。

「もしもし?」

『みんな元気?』

「ブレアさん!?」

















☆ ★ ★ ★ ☆








「……ん……」

クリフの瞳が開いた。
そして、朧な意識で上半身を起こして頭をおさえた。

「…頭痛え……。……ここ何処だ?……ん?」

 クリフは辺りを見回そうとしたとき、自分の手が小さな紙切れを握
っていることに気づき、それを見てみた。

『地獄巡りの片道切符』

 紙切れにはそう書かれている。







つづく(第七話へ)

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やっと前半は終わったと思いますー。
なんとなくこの話でこれがどういう話なのかは見えてきたかと…(そんなことない)
次回はみんなサイドはお休みして、クリフサイドのお話です。