LUNA・第七話
〜此処は何処〜





 オレは、死んだのか?




 自分の手の中にあるその切符をよく見てみると、すでにその切符は切ら
れていた。その切られた切符が何を意味しているのかは、クリフには容易
に理解することが出来た。自分の命が既に終わっていることを。



”死ぬってのは、こんなものなのか?”



 起き上がったときに、頭に軽い痛みが走っただけで、それ以外の身体的
な痛みは特に無かった。



”案外、あっけねえもんだな”



 死ぬことに対して、”怖い”という感情は生前から無かった。死にたいとは
思うことこそ無かったが、クリフの仕事上の性質からして、常に『死』は自分
のすぐ近くにあった。だから、それなりの覚悟があり、いつかはこうなってし
まうと思っていた為、クリフ自信も不思議なくらい冷静に自分の『死』を受け
入れることが出来た。

 それから暫くして、クリフは自分の周りを見渡してみた。そこは、周り中硬
そうな岩で囲まれており、その間をすごい熱そうな溶岩が流れている。上を
見上げれば真っ暗で、その上にあるのは空なのか岩なのか、それとも他の
空間があるのか分からない。例えるなら、ここはウルザ溶岩洞の様な場所
だった。

 クリフはマリアに貰った携帯ペットの『マリごっち』にエサをやって、たまっ
た排泄物を流してあげて、あっちむいてホイで遊んであげてから、自分が
置かれている状況を把握する為、ここの情報を集めようと適当な方向へ歩
き出した。
 今は、自分の足と五感くらいでしか得られる情報以外は無い。ここに自
分の言葉の通じる生物はいるのか、それさえもわからずに歩き続けた。


 それから、五時間くらい歩き続けただろうか。
 得られる情報といえば、お腹が減ってしまったことくらいである。自分の
全く知らない空間での不安や、孤独感が募っていく。

 と、そんなこんなで体に疲労感を覚えて、そこら辺の適当な岩へと腰を
掛けた。これからどうしようかと考えようと思い、なんとなく足元へと視線
を落としてみると、そこにあるものが落ちていた。

「おっ、ひさしぶりじゃねえか。こんなところに居たんだな。」

 クリフの視界には、マリアに貰った強制愛用のクマしゃんリュックが映
っていた。以前、深さ333mの穴に落ちてしまったときに失くしてしまった
クマしゃんリュック。それが、何故此処にあるのかという疑問よりも、自分
の知っているモノを発見出来た嬉しさが勝った。

「あーあ、こんなに汚れちまってよ。」

 クリフはクマしゃんリュックを手にとって、じっと見つめてから、クマしゃ
んリュックに砂埃を手でパッパッと払ってやった。すると、クマしゃんリュ
ックは喜んだ。ような気がした。

と、そんなとき…


ブビャビャビャビャブビャビャビャ…


 どこからともなく、時代遅れにも程があるようなキャブレーターの音が
聞こえてきた。
 その音に、クリフは神経を張って警戒を強める。暫くして、その音が
だんだんとクリフの方へと近づいてきて、やがて姿を現した。
 遠くの方から、一台のクラシックカーが低速で向かってくる。そして、
それがそれがすぐ傍まで近づいて、クリフの前まで来ると、停車した。
ゆっくりと窓が開いて、その窓が開くのと比例するようにクリフの心臓
は高鳴っていく。やがて、全ての窓が開いて、その車を運転していた
者が顔をのぞかせる。

「このようなところで何をしているのだねクリフ君?」

 と、運転手は紳士らしくステアリングに片手を置いたまま、紳士らし
い口調でクリフに話しかけた。クリフはその紳士な顔を見て驚くと同時
に変な安心感が走った。

「あんたは…ヴィスコム提督…」

「ウム。久しぶりだな。」


 ヴィスコム提督…、銀河連邦のとっても偉い紳士であり、部下から
の信頼もあつい紳士である。そして、クリフにとっては、間接的な敵の
紳士でもあった。結構前、惑星ストリームへ向かう変態集団をエクス
キューショナーから守る為、提督は自らの体と部下達とともにエクス
キューショナーの注意を引き付ける囮となり、紳士提督らしい勇敢で
演説をしてから、その艦と共に宇宙に消えていった、すごい紳士であ
る。

「まさか、こんなところであんたに合えるとはな…。」

 警戒を解いたクリフが言う。警戒を解いたというより、その紳士オー
ラで警戒を解かされたと言ったほうがいいのかもしれない。

「フフフ。私も君にまた会えて嬉しいよ。しかし、君がここに居るという
事は、やはり君も…」

 ヴィスコムは紳士らしくそう言った。

「まあな。原因は知らねえが、気が付きゃここに居た。」

「そうか…。まあ、立ち話もなんだね。君さえよければ、私の知ってい
る店で話さないかね。」

 と、ヴィスコムは紳士に誘ってみる。

「なら、そうするか。」

 クリフは、何の迷いもなく返事を返した。
すると、ヴィスコムは”フッ”と紳士チックな笑いを作って、紳士として、
ナビシートのドアを開けてやった。
 開かれたドアからクリフが”邪魔するぜ”と言って、狭い車内へと身を
入らせた。




つづく(第八話へ)





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久々に紳士にアップ〜
次回も紳士らしく紳士です。