第四話 この場所への別れ



いつもの様にマリアの病室を訪れ、
いつもの様に一方的な会話をし、
いつもの様に別れの口付けをし、病室を去る。

ここまではフェイトにとってもはや日常だった。

 だけど、この日、フェイトにとって、いや、マリアを知るものにとって
は、とても残酷な現実を聞かされることになる。

「ちょっと今いいかな?」

「えっ?」

 フェイトが病院の廊下を歩いているとき後ろから声をかけられた。
声をかけた人物はマリアの主治医で、何度か顔を見たりしているの
で、その人が誰なのかはすぐにわかった。

「話があるのだがいいかね?」

 そう言われ、フェイトは病院の中にある一室へと通された。フェイト
には医師の話がマリアについての話だということはわかっていた。
ただ、その話がどういうものなのか、回復の方向へ向かっているのか
それとも、その逆か、少しの期待と少しの不安をだく。

「それで、話というのは彼女のことなんだが、本来こういうことは家族に
話すものなのだが、彼女には家族がいないからな・・・」

「それで、話というのは・・・?」

 フェイトの胸は少し高鳴っていた。
この高鳴りが何を意味するのかわからないまま、医師の口は開いた。

「最近、彼女の体内で致死性のウィルスが発見された。」

「っ・・・・・・・・・・・・」

 フェイトは声にならない声をあげた。
致死性のウィルスなどはたくさん存在するが、それに感染してもそれに
対する抗体などを投与すれば、この時代の医療技術でなんとかなる。
 しかし、医師があえて「致死性」という言葉を口にするのは、それに対
する抗体、もとい治療法が無い場合である。

 つまり、それはマリアの「死」を意味すること・・・

 フェイトにはその意味がわかっているはずだが、それでも、確かめる
ように医師に聞く。

「治療法は・・・無いのですか?」

「ああ。残念ながら・・・・彼女の命はよくて後、二ヶ月から三ヶ月だろう
・・・・・」

 絶望した。
マリアの心はもう壊れているが、それでも生きている。存在している。
しかし、あと数ヶ月すれば彼女の命は消えてしまう。
何もかも無くなってしまうこと・・・

「それと、気になる事があるんだが、このウィルスは元々、有害ではあ
るが人を死に至らしめる程の力は持っていないんだよ・・・。しかし、彼
女から摘出できるウィルスは人を徐々にではあるが、死に至らしめるく
らいの力を持っているんだ。彼女の体内で変化しているんだよ。」

 マリアがフェイトの父であるロキシ・ラインゴッドから与えられた能力、
アルティネイション=物質をアレンジする力。
 その力が今、彼女の中で人を死に至らしめる程の力の無いウィルス
を、致死性のウィルスに変化させていた。
 それは、行き場の無い悲しみを自らの死をもって消去してしまうという
彼女が無意識のうちにやっている唯一の手段なのかもしれない。

「そう言っても、その原因がなんなのかは理解出来ないがね。それに、
理解できたとしても、もう・・・・」

 医師は途中で口を閉じた。医師が口を閉じても、医師が何を言おうと
していたかは容易に想像出来た。

 そして、フェイトはある決心をした。

「先生・・・マリアを少しの間外へ連れ出したいのですが・・・」

「外へ?・・・まあ、空気感染も血液感染の恐れも無いからそれは構わ
ないが・・・何処へ行くのだね?」

 医師が事務的な口調で問い返した。

「まだ、緑の残る場所へ連れて行きたいのですが・・・もうマリアの命も
永くないのなら、せめて・・・」

「そうだな・・・許可はするが、もし、彼女に異常があったらすぐに連絡
をすることと、無理は絶対に禁物だ。」

「はい・・・ありがとうございます。」

 フェイトは医師に一つ礼をしてこの部屋を出た。
(・・・ここに来るのは、あと一回・・・)
フェイトは医師に嘘を言った。フェイトの決心とは、明日ここからマリア
を連れ出しこの病院には二度と戻らないことだった。




 次の日、フェイトは学校には行かず、父が使っていた空を飛ぶ小型の
車に乗り病院へ向かった。
 病院へ着くといつもの様に軽く看護婦に挨拶をする。
・・・これが、最後の挨拶だと悟られぬように。

 病室には、精神が壊れてからいつもの様に窓の外を見ているマリアが
いる。今まで見てきた光景。同じ人。・・・だけど・・・この人は死ぬ。
そう思ってみても、そこにいるのはいつもと何も変わらないマリア。
彼女の命があと少しなんてフェイトにはあまり実感出来なかった。

「迎えに来たよマリア。・・・もうこの部屋とはお別れだね・・・それと、
その窓から見る景色とも・・・」

 フェイトは無意識のうちに作った作り笑顔でマリアに笑いかけ、必要
な彼女の物をまとめ始めた。

「さあ、行こうか・・・」

 マリアを車椅子に乗せ、この部屋に意識の中で別れを告げこの部屋を
後にした。そして、彼女の主治医から気休め程度にしかならない薬や栄
養剤をもらい、もう、来ることの無い病院を後にした。
 車椅子からマリアを両腕で抱きかかえ、助手席のシートに乗せ、フェイ
トは運転席に座りエンジンをかける。そして、二人を乗せた車は宙に浮い
た。

 二人を乗せた車は、まだ緑が残る場所では無く、遠く離れた海に進路を
とっていた。
 そこには、父が残した別荘がある。今となってはフェイトは行くことが無く
なり、父ももういないので誰も使わなくなったが、父が生きていた頃は、
仲の良かった両親がたまに使っていたので、中はそれなりに整理されて
いるはずである。
 そして、自動運転に切り替え、絶望を抱えながらその場所をめざす。




____そこにこの夢物語の終わりがあり、
      そこで、すべての終わりを迎える為に。







つづく




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