第五話 想起と絶望



「懐かしいな・・・ここ。」

 フェイトは久しぶりに見るその木造のの建物を見ながら少し昔を
思い出していた。
 父と母とまだ幼い自分。幼馴染であるソフィアがいたこともあった。
しかし、もう父はいない。
・・・・・・・・
 現実に戻りマリアのほうを見る。
・・・この人もまた父と同じように居なくなる・・・


「少し中を見てくるよ・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 今は眠っているマリアにそう言い、別荘の鍵を手にしてその建物へ
向かう。鍵を開け中へ入ると、フェイトの思った通りきれいに整理さ
れていた。フェイトは一通り中を見て回ると再び車の方へと戻った。

「着いたよ、マリア。」

 フェイトは助手席で眠っているマリアの肩を軽く揺する。マリアは
ゆっくりと瞼を開ける。彼女をそっと助手席から降ろし、背中に抱え
玄関へと向かった。

「君と二人でここで暮らすなんて夢にも思わなかったよ。」

 フェイトは灯りをつけ、ベッドにシーツを敷き、そこにマリアを寝かせ
る。

「今日は、もう遅いから眠ろうか・・・」

 そのまま、フェイトは眠るマリアにそっと口付けをする。今は、そして
これからは、今までの様に一時的な別れを告げる口付けではなく、
永遠の別れを惜しむ口付け・・・


















 フェイトとマリアがこの別荘で暮らし始めてから二週間がたとうとして
いた。彼女は起きるため、寝るため、食事するため、その他にも殆どの
日常生活における動作にフェイトを必要とした。

 マリアはこの二週間の毎日を日の当たる椅子に座り、大窓から見える
景色を見ていた。ここに来る前、同じように病室の窓からも外の景色を
見ていたが、そこから見えた都会の景色とここから見える太陽に照らさ
れた大海。その違いのせいなのか不思議と彼女の表情が穏やかに見え
た。




「もういいのかい?」

 マリアの隣に座り、彼女の口へと食べ物を運ぶフェイトのてが止まる。
そのまま口を開かなくなったマリアに無理に食べさせることもなく、医師に
貰った栄養剤を水に溶かして飲ませる。
 食事を終えたマリアをフェイトはベッドまで運び横にさせる。そして、フェ
イトも彼女が横になっているベッドに腰を下ろした。

「・・・こうなってしまったのは偶然なのかな、それとも必然なのかな・・・」

 答えを誰に求めるわけでもなく静かにフェイトは語り始めた。

「みんな今頃はどうしているかな・・・」

「ミラージュさんは心配してるよね・・・」

「アルベルやネルさんは僕達が今、どうしているかなんてわかるはずない
よね・・・」

 二人きりのこの空間にフェイトの声が寂しく響く。・・・だれも答えてはくれ
ないのにただ繰り返す独り言・・・

「あの戦いのときこうなるなんて思ってもみなかった・・・マリアがクリフの
ことが好きだってことはわかってたけどさ・・・」

「・・・なんで、アイツ死んだんだよ・・・」

 過去にフェイトの時間がさかのぼり、そのままクリフが死んだ時間で止
まる。
自分が超えることの出来なかった存在。
その人物のことを思い出していた。
その人物の居る場所へと旅立とうとしている、ここに眠る人を想いながら・・・

 フェイトは体に疲れを感じ自分もマリアの横に身を倒す。そして、そのまま
マリアの体を抱きしめ体を重ねた。

「・・・愛している。今までも、今も、これからも・・・」

 そう囁き口付けをする。
 その瞬間、時が止まった。

 ゆっくり舌を絡ませると血の味がした。
 それは、何よりも恐れていた終わりが・・・死が・・・
 すぐそばまで来ているということだった。





つづく




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