第六話 小さな宇宙の中で・・・




 この別荘で暮らし始めてから一ヵ月半の月日が経とうとしていた。
その日の夜、空には雲が無く満点の星空と蒼く透き通る様な月がこの地を
やさしく染め上げていた。

「今日は、夜空が綺麗だね・・・」

 フェイトは、眠ってはいないがベッドで横になっているマリアにそう言った。

「外で空を見ようか・・・」

 この夏の夜空があまりにも綺麗だったのでフェイトはそれを外で見ようと
言い出した。ベッドで横になっているマリアを抱きかかえテラスへと出る。
 そして、フェイトはマリアを後ろから抱きしめるような形で両手を前に出し
そのまま壁にもたれて座った。

「・・・こうして、地球上から月を眺めるのも久しぶりだね。」

 フェイトはそう言い、月からマリアへと視線を移す。
その顔は月の光にに照らされ幻想的な雰囲気を持ち、それがフェイトにとっ
て何よりも美しく思えた。
 この腕の中にいる、もうすぐ消えてしまう程の短い命を持った女性を、改め
て激しく愛しいと感じた。

 フェイトはマリアを抱く腕に力を込め強く強く抱きしめる。
心が通じ合えないぬるい抱擁。
月の光が愛しさを狂わせる。

「どうして・・・愛しているのに・・・君は消えてしまうんだい・・・
君の想いはアイツには届くことが無く・・・
僕の想いは君に届くことは無かったけど・・・」

 自然とフェイトは瞼が熱くなるのを感じた。
みんな、千切れた想いを胸に抱きながら、
消えていく悲しさ・・・
その全てが終わる怖さ・・・

永遠の時間軸に刻まれた一瞬でしかない「想い」はそのまま消えていく・・・

時間がすべてを連れ去って・・・

「・・・僕達は、こんな力を持って生まれたばかりに出会ってしまったんだよね
・・・君にそんな力が無ければアイツと出会うことも、僕と出会うことも無かった
はずだよね・・・
でも、僕は君と出合った事を後悔はしてないよ・・・もうすぐ、その時間は終わる
けど、僕は君を愛した時間があったから、今まで、あのつらい戦いとかを、乗り
超えてこれたんだと思う・・・」

 意識の下で死に急ぐマリアに言う。
壊れた体で、壊れた精神を持ち壊れた時間を生きることにマリアは疲れ果てて
いる。
 そして、マリアの悲しみを消去し、フェイトに悲しみだけを残していく時間。

 愛しい人を自分から奪っていく、

 その愛しい人もまた、愛しい人を奪われた。

 傷ついて、傷ついてここまで来た。
そしてまた、終わりの果てにあるスタートラインに立つ。
残酷な時間は回り続けていた・・・







「愛している。」
「・・・君を愛している。」






 フェイトは何度も「愛している」と言い、唇を重ね合わせた。
この届くことの無い想いを伝えるために。
意識の下で知ってもらうために・・・

 この星空と蒼い月に照らされる中、
小さな最後の奇跡が起きた。

 フェイトがマリアの唇から自分の唇を離したとき、
マリアの唇が微かに動いた。
そして、その唇から言葉を紡ぎだす。









「・・・・・・・クリ・・・フ・・・」






「・・・ごめん・・・・・・・・・・ね・・・・・」










 マリアの精神が壊れてから、その口からはじめて言葉を紡いだ。
愛する人の名を・・・
それが、彼女にとって最後になる言葉・・・

 そして、マリアの目からは涙が流れ、その頬を濡らしていた。

「・・・・・・・マリア。」

 フェイトの目からも涙が流れていた。
その涙が何を意味しているかはわからなかった。
ただ・・・涙が流れていた。
 もう一度、マリアの体を抱きしめる。
せめてこの温もりが、命が、消えてしまう前に・・・






 この大きな宇宙の中の、ここだけにある小さな宇宙の中で
 「ひととき」の夢に包まれて、最愛の人を抱きしめる

 何の約束もされていないこの腕で、その存在を確かめるように・・・

 ここに永遠は無いから・・・

 夢が終わるまで、深く・・・





 フェイトはマリアをベッドまでゆっくりと運び、
最後になるであろうその温もり、体温を求めた・・・
やがて、消えて無くなるから・・・
悲しみに包まれた夢物語・・・

そして、夜と共に時間が全てを連れ去っていく・・・・










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