SEEK




 何故だろう…、あの子を見ていると自分の中で何かがざわめく。
あたしの近くにあの子が近寄れば近寄るほど、自分がヘンになる。
なんというか…、100フォルを拾って、交番に届けようか届けまいかというような。
触れたい…、その髪、その頬、その手、その心に、…一度でいいから、触れてみたい。
 ついでに言うなら…、一緒に入浴したい、一つの布団で寝たい、一つのカップに二本の
ストロー、シーハーツランドで一緒にシーソー、二人で真夜中の砂浜、一緒に
ビートマニア、一緒に回転ベッド………ああ、フリータイム3 500フォル…。
…………ごめんね、クレア……あたし、ヘンになっちゃったよ…

クレア:(ネルはもともとヘンよ)

 何故なのかな、あの人が自分の傍に来れば来るほど、寒気がする。
彼女は優しい人。けど、皆に対するソレと、私に対するソレが…明らかに違う。
なんというか…、NAのレシプロエンジンとターボのロータリーエンジンの違いくらい。
 そんな…、慈しむような目で私を見ないで…。
…って、ちょっと!なんで私の通信機のメールチェックしたりゴミ箱の中を覗くの!?
あ〜それ!昨日私が捨てたはずの歯ブラシ!!なんで貴女が使ってるの!?
もったいないからって、そういう問題じゃないでしょ!!貴女のまだ新しいじゃない!
……というぐらい、最近の彼女は妖しいというか怪しいというか…怖い。
………助けて…クリフ…。最近おかしくなった彼女をどうにかして。

クリフ:(気にするこったねえよ。アイツはもともとおかしいぜ。)




 真夜中のシランドのファクトリー。マリアの不器用な包丁裁きの音が響き渡る。
その音に扉が開く音が混じる。

「おや?マリアじゃないか。何をしているんだい?」

「あ、ああネル。ちょっとクリフのために料理を作ってるのよ…。あなたこそ、私に何か用?」

 マリアは包丁を動かす手を止め、後ろに立つネルの方を向く。

「たまたまファクトリーの前を通りかかったら音が聞こえてね。」

 ……嘘よ。さっきから…貴女、ずっとそこの窓から覗いていたじゃない…。
そのヘンチクリンなマフラーのシルエットで分かったわ。

「へえ、そうなの…。で、なんで私のパジャマを着ているの?」

 ネルが着ているのは、マリアのお気に入りのクマしゃん模様のピンクのパジャマ。
…と、いつものマフラー…。酷くダサい格好だった。

「ああ。ちょうどあたしの服は洗濯中でさ。ジンジャーエールをこぼしてね。」

 ここはシランドよ。貴女の地元よ。
代えの服くらいすぐに取りに行けばいいじゃない…。
なんで、私のパジャマ…しかも洗ってないのをわざわざ着るの!?

「そ、そう…。だったら今日はそれを着ているといいわ。」

「本当かい?恩に着るよ。あんたに何かお礼をしなきゃね。」

 そんなUFOキャッチャーで景品ゲットしたようなような嬉しそうな顔で
言わないで!!!しかも、お礼なんかしなくていいから!!

「べつにお礼なんていいわよ。疲れているんでしょう?早く寝たほうがいいわよ…」

「気にすることないさ。あたしがお礼をしたいだけなんだからさ。」

 貴女はお礼をしたがってても、私はされたくないの!!!
……すごく…寒気が走る…

「それにさ…、あんたと一緒に居ると、疲れなんて吹き飛ぶよ。」

 ウィンクなんてしないで!!

「料理を作ってるんだったね。なにか手伝うことはあるかい?」

 どうやら、ネルは料理を手伝いたいらしい。
う〜ん。私の作る料理はドーベルマンが死ぬくらい不味い。
でも、ネルの作る料理は280フォルの牛丼より美味しい。
 ………手伝ってもらおうかな…。

「それじゃあ、お願いしようかしら。」

「OK。それじゃ、疲れただろう?あたしがマッサージでもしてあげるよ。」

 料理を手伝えよ!!!
しかも、マッサージだなんて、いかにもじゃない!

「マッサージはいいから、ボンカレーを温めてくれない?」

「ああ、わかったよ。」

 そして、ネルはボンカレーを出して鍋に入れて温めだす。
ネルが温めたボンカレーはとても美味しいのよね。
私は再びキャベツを刻む。

「イタっ!!」

 あ、私指切った。傷は深くない。

「大丈夫かい!!?」

 そして、ネルが私の元へと駆け寄る。この間、0,06秒。

「え、ええ。大丈夫よ。指切っただけだから。」

「よかったよ。あんたが重傷じゃなくて。…でも、消毒しなきゃね。」

 そして、ネルは私の手を取って舐める。
余計ばい菌が入る気もするけど…。……って、人の指舐めんなよ!!
さらにネルは、私の指を口にくわえる。舐めるだけじゃねえのかよ!!
口を上下に動かしながら、舌先で器用に傷口を舐めまわされる…。
ヒィィィィィィィィィィィィ!!
全身に、鳥肌が立つくらいのおぞましい寒気が走っていく。

「ネ、ネル!!も、もういいから。」

「これくらいじゃ足りないよ。すぐにばい菌が入るからね。」

「離してよ!」

 スポッと音を立てて、ネルの口内から自分の指を抜き取る。

「あ、ああ。すまないね。あんたの指が美味しかったもんでさ。」

 ネルは右手を頬に当て、照れたような表情になりそう言う。
…そんな顔で言わないで!!!つーか何てこと言ってんのよ!!
とりあえず、ネルは再び鍋のもとへ戻り、私はまたキャベツを刻む。
…1分後。

「いたっ!!」

 鍋を見ているはずのネルの方から聞こえた。

「どうしたの!?ネル!?」

私はネルの元へ駆け寄る。

「ああ、指を切ってしまってね…。」

 何故ボンカレーを温めているだけで指を切る!!!!??
ありえないわ…。
そして、ネルは血がちょこっと出ている指を私のほうに向ける。

「……………」

「……………」

「舐めてくれないのかい?」

 やっぱり、そうきたわね…。

「はい、キズバン。」

 私はポケットからキズバンを取り出してネルに渡す。
あえてヒーリングはしない。
…過去に一度、私が彼女にヒーリングをかけたときのあの悩ましげな表情は、
見たくないから。

「ああ、ありがとう…………チッ。」

 何!!いまの”チッ”は!!???

「それじゃ、手伝ってくれてありがと。私はもう行くね。」

「もういいのかい?」

そして、私は逃げるようにファクトリーを後にした。
これ以上、彼女と二人っきりでいると危険だ!!と、本能が告げたから。



FIN



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