理想郷 type-RX




 あの日が近づいてくる。
暦をめくる度に、フェイトの表情は明るく、他のメンバー達の表情はそれに反比
例するように、暗くなっていく。
 事態は、深刻だった。
クリフが、ダンスゲームで滅多に起こさないミスを起こしてしまうほど。


 そして、ついにその日がやってきた。
『フェイト主催うきうきピクニック大会』が開催される日が。
 普段、真面目なネルさえも、仮病を使おうとしていた。しかし、マリアに「抜け
駆けは許さないわよ」と銃口を向けられたので、仕方なく参加することになった。
 ロジャーとスフレは少年少女保護法とかで、参加することは許されなかった。




















「で、ピクニックっつってもよ。一体、何処へ行くつもりなんだよ?」

 ぺターニの人々が賑わう、中央の広場で6人は集まっていた。
その中のクリフが、やる気の無い顔で、フェイトに尋ねる。
ちょうどそのころ、強盗が銃をぶっ放していたが、誰も気に留めなかった。

「ああ。シーハーツランドだよ。」

「シーハーツランドぉ?何だそりゃ?」

 そこが何なのか分からないクリフはフェイトに答えを求めようとする。
フェイトが説明しようとする前に、地元人のネルが先に口を開いた。

「あんたにはまだ教えていなかったね。まぁ、世間じゃ理想郷と呼ばれてい
て、て〜まぱ〜くの事さ。」

「テーマパーク!!?」

 ”テーマパーク”というその言葉に、クリフは想像を働かす。
ジェットコースター、メリーゴーランド、観覧車、チンデレラ城、若いギャル。
・・・などなど。
しかし、そんなもの、こんなクソ田舎惑星の文明では・・・。

「で、そこには何が有んだよ?」

 おそるおそる、ネルに聞いてみる。

「ああ、ブランコやジャングルジム。それから、シーソーや鉄棒。・・・特に人
気なのが、すべり台だね。・・・あたしもよく、休日を利用してはクレアとそこで
楽しく過ごしていたりするよ。すべり台の順番待ちはツライものがあるけどね。」

「ああ、なるほど。」

 クリフは納得した。
このクソド田舎惑星のテーマパークとは、まあそんなものかと。
それと同時に、”それはテーマパークじゃなく公園というものだ”と、心の中で付
け足した。
 もっとも、そんなことよりも、23歳になっても、そんなところで楽しく遊んだり、
すべり台の順番待ちをするな!と、いう思いが強かったが。

「ちなみに、あの戦争での、アーリグリフの本当のねらいは、そこだったってい
う話もあるんだよ。・・・・だろ?」

 ネルはそう付け足して、アルベルの方を向く。

「・・・ああ。真実はどうなのか俺にはわからんが、そういう噂もあったっていう
のは事実だ。・・・それから、俺も戦争が始まる前までは、よくジジイに連れて
いってもらっていた。」

 だからダメな国なんだ!!・・・と、思うクリフ。
それよりも、”お前に至っては保護者同伴かよ!”と思った。








「それじゃ、もういいかな。そこの超絶級クソド田舎国の家畜人間ども二人。」

 フェイトがそう言うと、テーマパークという名のクソ公園の話に花を咲かせて
いた、いなかっぺのネルと、いなかっぺのアルベルは黙った。

「実はもう、班は決めてあるんだ。えっと、僕はクリフと一緒の班になるから、
あとは、めんどくさいから、他の低俗人間達で適当に決めてよ。」

 フェイトがそう言った瞬間。
フェイトは自らの血で視界を赤く染めて、地面に転げ落ちた。
 彼が他のメンバーを『低俗人間達』と呼んだせいではなく、勝手にクリフと
班を組むと決めたせいである。
そして・・・・・・・・

「あたしがクリフと班を組むんだよ!」
「悪いけど、私がクリフと一緒よ。」
「クリフさんは譲れません!!」
「・・・ぼ、僕・・・が・・・・」
「俺だ!クソ虫どもが!」

 クリフ以外の5人は争いを始めだした。
鮮血が宙を舞い、絶叫が辺りに響く。
 クリフが止めに入る。もちろん、クリフは巻き添えを喰らい、いつのまにか、
『クリフを殺った人がクリフと一緒に班を組める』というルールが作られていた。











 10分後。
一番、ダメージの大きいクリフが地にひれ伏し、それを他のメンバーが見下ろし
ていた。

「これじゃ、誰がクリフを殺ったのか分からないわね。」

「うん、確かに。それじゃ、クリフ本人に誰と一緒の班になるか決めてもらおう
か。」

 血まみれのフェイトがそう言った瞬間。
フェイト以上に血まみれになったクリフが、霞んでいく意識の中で、手を動かし
誰かの足を掴んだ。






「「「「アルベル!?」」」」





 クリフは、吐息を漏らしながら、アルベルの足首を力無く掴んでいたのだっ
た。

「・・・クリフ・・・・・お前・・・」

 消えていく意識の中で、必死に立ち上がろうとするクリフに、アルベルは肩を
貸す。

「すまねえ・・・な・・・アルベル・・・」

「・・・・・・気にするな。」

「消えてく意識の中でよ・・・・聞こえたんだ・・お前と・・・一緒の班になれってよ。」

「そうか・・・」

 クリフは確かに消えていく意識の中で、誰かの声が聞こえていた。
それは、フェイトにピクニック大会という使命を与えた者の・・・願いだったのかも
しれない。
 クリフとアルベルが謎めいた会話をしているところに、フェイトは釘をさす。

「おいアルベル!クリフを解き放て!!クリフは僕のモノだぞ!!」

「黙れ小僧!!お前にクリフが救えるか!!」

 フェイトはアルベルにそう言い放たれ、フェイトは意識を手放し、また地に倒
れこんだ。
 アルベルは・・・初めてフェイトから勝利を得た。
フェイトから視線を外し、ネルのほうへと視線を向ける。
アルベルには、クリフを除いてもう一人だけ勝てない人間がいた。
ネルのことだ。
 だが、今回は、今回はあのネルからクリフを奪い取ったんだと、ネルに向け
て、勝利の笑いを浮かべる。

 その刹那。
ネルの頭の中で、”プッチン”とシャープペンシルの芯が折れるような音が鳴っ
た。そして、彼女は宙に飛び上がり、アルベルに向かって急降下する。
 大攻撃という名の、『回転ジャンプ頭突き』が繰り出された。



「アルベル!!危ねえ!!!」

 勝利の余韻に浸っており、油断していたアルベル。
ネルの回転ジャンプ頭突きをかわしきれないと判断したクリフは、ボロボロに
なったその体で、アルベルの盾となった。

 ネルの回転ジャンプ頭突きを、まともに背中に喰らったクリフの意識は完全
に途切れて、体は再び、地に落ちた。

「クリフ!!大丈夫かい!!?・・・アルベル・・・あんたの、あんたのせいで、
クリフが・・・死んじゃったじゃないか!!」

「ちょっと待て!俺のせいなのかよクソ虫!!」

「・・・・・オレはまだ・・・死んでねえよ・・・」











一時間後。
少しだけ体力の回復したクリフや、フェイトと共にピクニック大会は開始された。
フェイトはどうでもよかったが、ボロボロになったクリフを歩かせるのは忍びない
と思ったネルは、バスを呼んだ。

 足が沢山生えており、大きな猫の形をしたバスがやって来た。

 そのバスで目的地に向かうらしい。
そのバスの中のシートは高級猫の毛の様にフカフカだった。おかげで、クリフと
フェイトの体力はすっかり回復した。
 目的地に着くと、バスが、猫のくせに乗車料金を請求してきたので、6人で得意
の集団暴行を猫のバスに加えて、その辺の地中にバスを埋めた。






 みんなで、すべり台などで楽しく遊ぶ。
すべり台で遊ぶことが楽しいんじゃない。
クリフと一緒になって遊ぶことが楽しいんだ。

「次にクリフと一緒に滑るのは、あたしだよ!!」
「私よ!」
「僕だね。」
「俺だ!」
「私です。」

 喧嘩をして、体が血まみれになっても、クリフと一緒に遊べるというだけで、
こんな喧嘩さえも、楽しく思える。


 昼食の時間は、ネルが弁当を作り忘れたというので、みんなで彼女を責め
立てながら、その辺に生えていた、もやしと大豆を生のままで食べていた。
 こんなものでも、クリフと一緒に食べられるというだけで、とても美味しく感じ
ていた。

「はいクリフ。あ〜んして。」
「マリアだけずるいぞ!ほらクリフ。あ〜ん。」
「俺のが食えねえってのか?あ〜んしろ!」
「あたしのもお食べ!ほら、あ〜ん!」
「私のも食べてください!あ〜ん。」

 そうやって、みんなでクリフの口へとありったけの生もやしを押し込む。
さすがに、クリフといえども、そんなに一気に生のままのもやしを食べること
は出来はしなかった。そして、息苦しくなり口から吐き出す。

「クリフが食べなくなったわ!」
「よし!クリフの口を押さえよう!」

 ”なぜそうなる!!?”口を押さえられたクリフは、発言を許されはしなかっ
た。ふたたび、口に生もやしを押し込まれる。




 それから、楽しい時間が一瞬のように過ぎ去っていき、帰る時間となった。

血まみれになったクリフに、血まみれになった5人がしがみつきながら、沈み
行く夕日を眺めていた。
そして、5人がクリフに自分の頭を撫でて欲しいとねだり、クリフもめんどくさ
そうにしながら、”班を組んだ意味はあったのか”と思いながらも、5人の頭を
一人づつ撫でてやる。

 クリフに頭を撫でられながら、5人は同じ事を思った。

世間では、理想郷と呼ばれるこの場所。
こんな、腐ったアホみたいなテーマパークが理想郷なんじゃない。

本当の理想郷とは・・・、クリフの傍なんだと。






6人は、暖かいラーメンを食べてから、ぺターニの宿へと戻った。


 






おしまい

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ちょっとあとがき
やっとこさアップしました一万打企画第一弾!お待たせしました!(ホントに)
愛されクリフシリーズ。最後はほのぼの締めくくるのが定番になりそうです。
そして、またジブリが・・・。
フェイトにピクニック大会という使命を与えた者というのは、もちろん。

リクエストありがとうございました〜!!
クリフ大好きな奥居さんへ。どうぞ持ち帰っちゃって下さい^^