静かな熱





 静かな朝の光が、格子の間を縫い部屋に差し込む。
小さな鳥の鳴き声と、朝の心地よい風に導かれるようにして、
ネルの瞼も開く。


「・・・・・・・・・・・・・・・」


 不安定な意識を手繰り寄せ、そっと上半身を起こす。
ベッドの横にある窓から差し込む光が眩しく、その光によって不安定な
意識が安定していく。

 風が窓から入り込み、カーテンを揺らす。
朝のその風が、冷たく身に染みる。
その、あまりの冷たさに、彼女は違和感を感じて、目線を自分の身体へ
と向ける。

 そこには、何も纏わない、自分の裸体がある。

 それを見た、ネルの顔が赤くなるのを感じ、心臓の鼓動も大きくなる。
昨夜の、自分の乱れた姿、激しい行為が、頭の中を通り過ぎていく。

 横には、自分と同じ姿で、当然の様に眠っている、筋肉の張り詰めた
大きな体をした男、クリフが在る。

 ネルは、ジッと彼の寝顔を、険しい顔で見つめる。
しばらくそうして、彼を見つめる。やがて、彼の男らしさ漂う寝顔を見ている
と、何故か安心感が訪れる。ネルの険しかった表情が一瞬にして崩れ、
その顔から、自然と微笑が零れ落ちる。

 その瞬間。

 突然。クリフの腕が動き出し、ネルの後ろにまわり、肩を掴む。
突然のその感触に、声を漏れ、気が付けば、クリフの胸板へと収まってい
た。
 その熱い胸板から、彼の力強い心臓の鼓動が伝わる。


「・・・あんた、起きていたのかい。」

「まぁな。もっかい寝ようとしたが、お前が起きていたもんでな。」


 クリフが、日常のいつもの口調でそう言い、胸の上に抱き寄せたネルを
シーツの上へと戻してやる。
 クリフも、天井から視線を外し、体を横に向け、互いを見詰め合うような
形になる。


「それにしても、お前の寝顔といえば、まるで十代の女の子みたいだったな。
昔のマリアを思い出しちまったぜ。」


 少年のような笑顔で、クリフはケタケタと笑う。
昨夜の、「大人」を感じさせる情に染まった表情とは、まるで別人のような、
無邪気で眩しい笑顔。
 そんな「大人」も「少年」も、クリフ・フィッターという、同じ人物。


「人の寝顔をずっと覗いてるなんて、いい趣味とは言えないね。」


 ネルの表情に、不機嫌な色が浮かぶ。

「ほう。人の寝顔を見てニヤニヤするのもどうかと思うがな。」

「・・・あんた、薄目を開けてたのかい・・・。悪かったね、ニヤニヤしてて。」

「それじゃ。俺の勘はあたったようだな。」

「勘って・・・。カマかけたね。」


 そう言って、ネルの表情が見ていて分かるくらいに、不機嫌さを増していく。


「まあ、そういうこった。しっかし、お前ってホント分かりやすいよな。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 そのままの表情で、ネルは何も言わない。
ただ、不機嫌なその表情を崩さず、ジッとクリフを見据える。


「怒っちまったか?だったら、謝る。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・別に、怒ってなんかないさ。」


 不機嫌そうな表情が、一瞬にして、笑顔に変わる。
さっきまでの、不機嫌そうな表情はクリフへの仕返しという意味。
子供のような、ちょっとしたイタズラ。

 曇った夜空から、突然、顔を出した月のような。
そんな、優しい笑顔が、クリフにはものすごく愛しい。


 静かに唇を、触れ合わす。そっと。小さく。
 一度、二度、三度と、軽く、優しく、じゃれあう様に。


 つい、何時間か前までの、燃え上がるような情欲を心にたぎらせ、全ての
思考回路を切断させて、ひたすら互いの心と、体を、求め合うような、情熱
に溢れたキスではなくて。

 静かな、淡いキス。

 ただのスキンシップの様で、今は、互いの愛しき人物がすぐ側に居るから。
人の目に触れず、誰にも邪魔されずに、こうやって言葉なんて無くても、互い
の意思を伝え合うことが出来る。


 その頬に、
 その瞼に、
 その額に、
 その耳に、
 その首筋に、
 そして、唇に。
 何度も、何度もキスを降らしていく。


 言葉なんて要らない。
 否、言葉でさえ・・・・・・・邪魔になる。


 互いの口から発せられる言葉は、側に在る愛しき人の名前だけ。
 それ以外は、何も必要ないかというように・・・。


 クリフの掌が、ネルの後ろ髪に触れ、ネルの掌が、クリフの肩に触れる。
漏れる吐息も、肌に伝わる体温も、手に取るようにわかる相手の心臓の鼓動
も。そのすべてが、なによりも愛しい。


 そして、最後にもう一回だけ。
唇を永く、今までのどのキスよりも、永く重ねあった後。
ネルは、クリフの胸から離れていく。
 本当は、離れたくも、離したくもないけれど・・・。

 時間だけが、それを邪魔する。


「・・・もう、みんな起きるころだね。」


 惜しむようにネルが言う。
ゆっくりと、上半身を再び起こす。
床に落ちた、自分の衣服を手に取ろうとするその手を、クリフの大きな手が
妨害して引き止める。


「お子様達は、まだ寝ている時間だろうぜ。」


 クリフは、ネルの手を掴んだまま言う。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 時間にして、ほんの数秒。沈黙が流れる。
そして。


「そうかもしれないね。」


 ネルはそう言って、クリフの胸へと、再び落ちていく。


「お子様って、あんたのことじゃないのかい。」


 さっきのクリフの行動が、まるで子供の「行かないで。」とでも言うような雰囲気
と重なって、なんだか可笑しかった。


「あ〜そうだよ。俺はお子様だよ。」


 苦笑しながらも、クリフはネルを再び抱き寄せた。

 また、唇が重なり合う。
 深く、深く、ずっと深く・・・二人だけの甘い時間へと沈んでいく。


 静かな朝の光を受け、
 静かな朝の風に包まれ、
 静かなこの部屋の中で、
 そっと、心に、情熱の火を灯した。














おわり



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ちょっとあとがき
いや〜なっていうか・・・朝トレをしております。頑張っております(汗)でも静ラブです。
シークレットバカップル万歳!!!久しぶりの白背景でございます!!
甘甘甘を目指して、行き着く先はイチャイチャしてるだけ。。前にも似たようなの書いた気が・・・。
『ラブラブなクリネル』を、どこかで『エロエロなクリネル』にしてしまいそうでした。
(もう、遅いって・・・)クリネルは冗談交えながらエッチイことしてそうです。(何)
・・・自粛しないと・・・(する気ないでしょキミ)

リクエストありがとうございました!クリネル万歳!