太陽の破片 T
〜Starting Paranoia〜





 クリフはまたしてもアーリグリフへ行くことになった。
どうやら、二回目のアルベルについてのセミナーが行われるらしい。

 時刻は午前九時。場所はぺターニの宿。
クリフは靴紐をしっかりと結び、マリアに貰ったクマしゃんリュックを肩に掛け、
眩しいくらいの笑顔で皆に一時の別れを告げる。

「それじゃ、ちょっくら行ってくるぜ。」

 明るくそう言ってみたものの、他の皆の顔は引いてしまうくらいに曇っていた。
ヘソを出した歪みの人や、赤い髪の忍者さんに至っては、瞳に涙を浮かべて
いる。
 皆、知っていた。わかっていた。
前回、クリフが一人でアーリグリフへ行ったときの、クリフの居ない寂しさと、
残された者の悲しさを。
 今日もまた、あの日の様に、クリフの居ない、無意味で、退屈で、切なくて、
やるせなくて、生きた心地のしない時間を過ごすことになると考えただけで、
自然に顔が曇ってしまう。

「おいおい。何でそんなに暗ぇ顔してんだ?」

 クリフは苦笑しながらそう言う。
そして、何を思ったのか、ネルは愛用している、デパートのバーゲンで買った
短刀を取り出しす。

「あんたの居ない時間をまた過ごすくらいなら・・・・・・・」

 ネルはその短刀を手首に当て、リストカットをしようとする。

「おい馬鹿か!!何考えてやがる!!!」

「やめてくださいネルさん!!自殺なんかしたって保険金は下りないんですよ!」

 クリフとフェイトは、リストカットをしようとしているネルを抑える。
宇宙を旅するようになってから、少々オツムが足りなくなってきている彼女の事
なので本当に失命しかねない。
 そして、ネルはフェイトの声を無視したが、クリフに言われて素直にリストカット
を中止した。








10分後。

「それじゃ、今度こそ行ってくるぜ。」

 クリフの顔には少し疲れの色が浮いていた。

「本当に行っちゃうの?」

 マリアが下を向いて寂しそうな声で言った。

「ああ。まっ、だいたい夕飯までは戻ってこれると思うぜ。」

 クリフがそう言うと、マリアはクリフを押し倒さんばかりの勢いで、クリフの
その厚い胸板へと飛び込んでいった。

「帰ってきてね・・・絶対・・・。でなきゃ、私・・・私・・・」

 そう言ってマリアは、梅干くらいの大きさの涙を流しながら、子供のように
大声で泣き出した。
 とりあえず、それはとてもうるさくて至近距離のクリフの鼓膜は破れそうに
なっていた。

「心配すんな。言ったろ?夕飯には帰ってくるってよ。」

 いつもの豪快で不敵な笑顔と異なり、暖かくて優しい笑顔を見せ、マリアの
涙を指で拭い、頭をそっと撫でてやる。
 すると、まるで魔法が解けたようにマリアのアホくさい泣き顔はみるみる笑顔
へと変わっていく。

「よし、いい子だ。」

 クリフはマリアが泣き止んだのを確認し安心すると、他の皆の方へと視線を
向ける。

「うわっ!!」

 するとそこには、”自分の頭も撫でて”と言わんばかりに、他の6名がクリフの
方へと頭を突き出していた。
 それでも、クリフはいいヤツなので”マジかよ・・・”と思いながらも、約十分かけ
て、皆の頭を一人一人優しくなでなでしてやった。
 とくに、スフレとネルとアルベルはとても嬉しそうにしていた。
 そして、フェイトが言った。

「抱っこして。」

 と。

 クリフはフェイトのことをしっかりと『変態』だと正しい解釈をしているが、それ
でも、ついつい甘やかしてしまうクセがあるので”しかたねえな”と思いながらも
しっかりとフェイトを抱っこしてやる。
 それで、ドサクサに紛れてフェイトはクリフにチューをする。
もちろん、フェイトはそのまま投げ飛ばされた。
そして、さらに・・・

「あ、あの・・・わ、私も抱っこしてください!!!」

 ソフィアだった。
クリフは”またか”と思いながらも、ソフィアが珍しく自分に話しかけてくれたのが
少し嬉しかったのか、抱っこしてやろうとすると、

「アタシも〜!!」
「俺も抱っこしろ!!阿呆!!」
「オイラが先だってばよ!!」
「あたしが、一番先だよ!!」

 と、恐ろしくアホくらしい争いを始める他4名。
頭が意外といいクリフは、止めるよりも自分が一人一人抱っこしたほうが早いと、
判断を下して、仕方なく一人一人抱っこしてやる。
 頭がいいというより、諦めているだけなのかもしれない。









 で、10分後。

「それじゃ、今度こそ本当に行ってくるぜ。(あ〜疲れた)」

「あのさ、クリフ・・・」

「おっ、どうしたネル?」

 いい加減、早く出発したいクリフをネルが立ち止めらす。

「あんたに弁当を作ったんだけどさ・・・。よかったら、食べてくれないか。」

 ネルは照れながらそう言うと、何処からかピンクのバンダナに包んである21イン
チのテレビ一台分位はあるような弁当箱を取り出し、クリフに手渡す。
 それを見たアルベルの表情は少し暗かった。きっと、弁当箱にトラウマでもある
のかもしれない。

「おっマジか!こりゃ、ありがてぇ!サンキュー、ネル。」

 クリフはものすごく眩しくて、とても嬉しそうな、本当に無邪気な笑顔を浮かべる。
それを見ているネルの表情もとても嬉しそうだった。
 で、それを見ていた他のメンバーは、

「あ、ちょっと待っててクリフ!私も今から弁当を作るわ!!」
「僕も作るよ!!」
「私も作ります!!」
「アタシも作る〜!!」
「オイラだって!!」
「俺もやるぞ!!」

 そう言って、クリフの弁当を作りにファクトリーまで走り出そうとする6名。

「いい加減にしろ!!昼飯ならこれで充分だ!俺は、早く行きてぇんだ!!」

 早く出発したいこともあって、シビレを切らしたクリフが怒鳴る。

が、

「えっ?早くきたいですって!!?」

 マリアはそう言って、何を勘違いしたのか、いきなり服を脱ぎだす。
そして、何故かフェイトも脱ぎだす。さらに、中身は熱血なネルも負けじと脱ぎだす。
それにつられて、ロジャーとスフレとソフィアとアルベルまで服を脱ごうとする。

「誰が服を脱げと言ったよ!!」

 クリフは皆が脱いだ服を再び、一人一人着させてやる。
このあたり、かなりの保護者体質である。










 で、さらにまた10分後。
 クリフが出発しようとしてから既に30分が経過していた。

「それじゃ、今度こそ本当の本当に行ってくるぜ。(あ〜マジで疲れた)」

 そして、クリフは宿を後にする。
他のメンバーは『サライ』を合唱しながら、ぺターニの南門へとクリフに纏わり付き
街の人に変な目で見られながらついていった。
さすがにこれは、図太い神経のクリフでも恥ずかしかった。


 ぺターニの南門。
アーリグリフへと向かったクリフを見送った。
残された7名の表情はまるで、太陽が沈んでしまった後の夜空の様に暗かった。

 そして、この後クリフに起こる災いを、誰も知る由もなかった。






つづく  Uへ




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