太陽の破片 V
〜Psycho Trip〜






「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 沈黙だけが、この場所を満たす。
7名の顔からは生気の欠片も見えない。
もしも、この場所に一人足りない筋肉が居たのならば、この場所はもっと明る
くて、楽しい場所になっていたに違いない。
だけど、今は・・・居ない。

 この湿った空気に耐えられなくなったのか、なんなのか、ソフィアが贅肉たっ
ぷりの尻を持ち上げ、厨房の方へと歩き出した。

「何処へ行くの?ソフィア。」

「クリフさんが帰ってくるまで夕食を作っておこうと思いまして・・・。あの人、たく
さん食べますから。それに、戦闘のほうも、クリフさんとロジャーちゃんとマリア
さんにまかせっきりで、私やフェイトやスフレちゃんやネルさんやアルベルさん
は、ずっと喰っちゃ寝だったからせめて・・・。」

 言わなくてもいい余計なことを言いながら、ソフィアはドカドカという音をさせて
厨房まで歩く。

「・・・俺も、手伝う。」

「私も手伝うわ。」

 そう言って、アルベルとマリアもソフィアにくっ付いて、厨房へと向かう。ソフィ
ア的には”あなた達二人が手伝うと、私のおいしい料理が変になっちゃう・・・”
と、思いながらも、この二人は、ちょっと怖いので、何も言えなかった。

さらに、

「あたしも手伝うよ。」
「オイラも手伝ってやるじゃんよ。」
「僕もやるよ。(媚薬混入を)」
「アタシも手伝う〜。」

 他のメンバーも立ち上がった。
それでも、ソフィア的には”手伝うのはネルさんだけでいいのに・・・”と、思って
いた。フェイトやマリアなんて何を入れるか分かったもんじゃない。

 そこで、役割を分担してやることになった。
料理以外、何も無いネルとソフィアは料理を作り、特異なセンスを持つアルベ
ルとスフレは部屋の飾り付けに、何か、余ってしまったフェイトとマリアとロジャ
ーはプレゼント製作に取り掛かった。
 今、心に幅5b深さ333bの傷を持った7人が、大切な人の帰りを待ちなが
ら、それぞれの役割に打ち込んだ。



 午後6時。
作業中の描写が酷くめんどくさいという理由で、それぞれの作業は難無く終了
した。
 テーブルの上には、ニンニク料理や、スッポン料理や、赤マムシドリンクが並
べられ、部屋には悪趣味な装飾が施され、部屋の隅には、何だか、怪しいプレ
ゼントの箱が置いてあった。

「これだけやれば、きっとあいつ、驚くだろうね。」

 腕に、先週クリフにプレゼントされた、どえらい不っ細工なカエルしゃんのぬい
ぐるみを大切そうに抱えながら、期待に満ちた顔でネルが言った。
 その言葉に皆も頷き、無意味にコサックダンスを踊りだした。























 そのころクリフは。

「・・・・・・・・・・ん。」

 クリフは333bの穴の底で、落下したときの衝撃により、約2時間気を失っ
ていた。で、目を覚ました。

「ここは・・・。ああ、確か俺は・・・。」

 クリフは記憶を巡り、今の状況を理解する。
日は沈み、穴の中は真っ暗。そしてすごく寒い。
登って這い上がることを考え、壁に手をつけてみるが、壁の土はポロポロと脆
く落ちていく。土の質が柔らかいため、壁をよじ登ることは不可能だと考える。

「ちっ・・・。これじゃ、登れやしねぇ・・・。」

 クリフはそう言って、次の手段を考える。次に頭をよぎった考えは、通信機。
クリフは通信機を取り出す。ディスプレイは18:12という時刻を表していた。
メモリにインプットしてあるマリアの番号を押す。

プ・・・プ・・・プ・・・

『お客様の通信機は料金が支払われていないため、ご利用になれません』

 無機質な声が通信機のスピーカーから虚しく響いた。

「クソッ!!何でこういうときに限って使えねぇんだよ!!!」

 バシッという音を立てて、通信機を足元に叩き付けた。
先月、マリアに大きなクマしゃんのぬいぐるみをせがまれ、買ってやったので
料金を払えなかったのを思い出し、酷く後悔していた。

「だいたい、何でこんなとこに穴なんて開いてやがんだ?」

 クリフが、そう言った瞬間。
上の方からタライがクリフ目掛けて降ってくる。そして、”ゴン”という、音を立
ててクリフの頭に直撃した。

「イッテ〜!!」

 何故、タライがいきなり降ってきたのかは、きっと、クリフがツッコんではい
けない部分にツッコミを入れてしまったせいであろう。

「さて、どうすっかな・・・」



















 午後9時。ぺターニ。

「クリフちゃん遅いね。」

「一体、どうしたんだろうね・・・」

「何か、あったのかな・・・」

 皆の顔に不安が浮かび始めていた。
ここに居ないのがフェイトあたりだったならば、こんなふうにはなっていない
だろうが。

「きっと、道に迷ってるのよ。・・・だから、祈りましょう。」

 そして、マリアは両手を握り合わせ、天に向かって祈り始めた。

「陰獣儒黒血死腐負蛇邪呪闇鬼・・・・」








その祈りが通じたのか、
アーリグリフ付近の上空からは、
音も無く・・・静かに・・・静かに・・・
夜の闇に溶け込んだ、幾千の白い小さな結晶が
クリフの元へと・・・そっと、舞い降りていく・・・















































ハックシュン!!!チッ、勘弁してくれよ。何で雪なんか降ってくんだよ。
まさか、祈りの雪とかじゃねえだろうな!?だったら、祈ったヤツのツラでも
拝みてえもんだぜ。ついでに、育てた親のツラもなあ!!!」

 クリフには、余計なお世話だった。

「うッ・・・・・・!」

 突然。
クリフの視界が歪みだし、頭がボーっとし始めた。

「意識が・・・薄れてきやがったか・・・」

 バタリ・・・。
大きな穴の奥底で、クリフの意識は途絶えた。
原因は、昼にネルの愛情のこもりすぎた弁当を食べ、『愛』を一度に過剰摂取
してしまったことと、とどめに、マリアが祈って降らせた雪のせいで、体温が急激
に奪われてしまったせいである。



_____俺は、もうダメなのか・・・・








つづく Wへ





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