冷たい太陽 [暗幕]



 夜の闇があたりを被い尽くしていた。
小さな灯りが灯りが一定間隔で灯され、静けさに包まれた廊下。
赤い髪を揺らし、足音も立てずゆっくりとこの廊下を歩く女性、ネル・
ゼルファーはある部屋へと向かっていた。
その足取りは、その部屋へ近づくにつれ重くなっていった。

 そして、その部屋の前へ辿り着くと、足を止め一息呼吸をし、ドアの
ノブに手を掛け、罪の意識を抱きながらゆっくりと回す。

 部屋の中には重たい空気で満ち溢れ、夜の闇に小さな儚い光を放っ
たランプがテーブルの上に一つだけ置いてある。そのテーブルの側にあ
る椅子の上には、ランプの灯りに横顔だけが照らされ、銀の長い髪をし
た女性の姿があった。

「今日は遅かったわね、ネル。」

 カツン・・・と、床を打つ音と同時にその女性は椅子から身を離した。
ランプの灯りに照らされたその全身には、胸、手、足に痛々しい程の
量の包帯が巻いてあり、
右手には杖、
そして、力なく引きずられる右足。
 不規則なリズムで杖を床に打つ音を響かせ、その女性はネルに密着
するくらいの距離まで近づいてきた。

「それで、どうして遅れたの?」

 うっすらと、冷たい微笑を浮かべもう一度ネルに問う。

「・・・すまないクレア・・・今日は・・・」

 ネルがクレアの瞳から斜め下へと視線をそらし、遅れた理由を述べよ
うとすると、いきなりクレアの左手がネルの後ろ髪を掴み引っ張った。

「いいわけなんて聞きたくないの・・・」

 視線をネルの瞳へとまっすぐ向け、微笑を浮かべたまま、落ち着いた
口調でクレアはその言葉を投げかける。

「・・・クレア、すまない・・・」

 今度は、ネルもクレアの瞳へと、まっすぐに視線を向け謝罪をする。

「フフ、いいのよ。今日もちゃんと来てくれたから。」

 クレアはにっこりと笑って、ネルの後ろ髪を掴んだままネルの首筋へ
と舌を這わせる。

「・・・・・・ッ!」

 ネルは首筋に冷たい舌の感触に全身の神経を逆立て声にならない
声をあげた。
 そっと首筋を一舐めすると、舌を離しクレアはネルへ背を向ける。そ
のままネルは何も言わずクレアの左手を取り自らの肩を貸し、ゆっくり
と白いシーツが敷かれたベッドへと向かう。

 クレアはネルへと、壊れた愛情と罰を与え、
 ネルはクレアへと、罪意識とつぐないをもって答える。

 そしてまた夜の闇を千切っていく・・・













 一ヶ月前。
 
 戦争で失った国力などの復興の為、ネルとクレアはグリーテンの方面
へと、その技術力を分けてもらう為の要請を出しにいくという任務が与え
られた。
 この辺りに生息する魔物の力量は高く、他の者では難がある為、クリム
ゾンブレイドと称されるこの二人に動いてもらうことになった。

「貴女と一緒の任務だなんて久しぶりね。」

「ああ、そうだね。」

 最近まで、アーリグリフとの戦争での人材不足のせいや、宇宙での新し
い仲間と共に宇宙の運命を賭けた戦いなどで、二人一緒に時間を共有
することがあまり無かった二人にとって、任務とはいえそれなりに楽しい
時間を過ごしていた。

「国や私達の生活が落ち着いたら、貴女はあの背の高いクリフさんと新
しい生活を始めるのだったわよね。」

「ああ、そうだよクレア。・・・あんたには想いを寄せる相手は居ないのか
い?」

 ネルは笑顔でクレアへと問いかけた。

「フフ。私には今そういう人は居ないわ。でも、貴女にそんな事を聞かれ
るなんて思ってもいなかったわ。」



____貴女のことが好きだなんて、言える訳ないじゃない・・・・・・・



 時々、会話を交えながら目的地までの道を進んでいると、突然一体の
人の身長の二倍はあろうかという様な大きな竜が二人に襲いかかってき
た。勢いをつけてその爪は二人に振り下ろされるが、とっさに身をかわし
た。

「少し手強いかもしれないよ、クレア。」

「そのようね。」

 再び竜の爪が勢いよく二人をめがけ振り下ろされる。
それと同時にクレアとネルが左右に跳びかかり短刀で竜を斬りつける。
しかし、竜の生命力や皮膚の硬さから、なかなか致命傷を与えることが
出来ず、その攻防は予想以上に長引いた。
 やがて、集中力が切れ、ネルは不覚にも足に傷を負い地に倒れてしま
った。そこへ竜がネル目がけて、力一杯爪を降ろそうとしていた。その瞬
間ネルは自分のその瞬間後の姿が頭をよぎった。
 そして、竜が爪を振り下ろした。その時ネルの視界に入ったモノは体の
前部分が竜の爪によって引き裂かれ宙を舞うクレア姿だった。
 クレアは、ネルをかばう為にその身を捨て、盾となってくれたのだった。

「クレア!!!」

 地面に落ちたクレアの体からはおびただしい程の血が流れていた。
すぐさま、ネルはクレアの方へと走ると同時に、竜はトドメを刺すかの様に
大きな咆哮をあげこちらへ向かってくる。

「許さないよ!!!!」

 ネルは怒りに身をまかせ、竜を斬りつけた。その刃は竜の喉を切り裂き
また大きな咆哮をあげのたうち回ったあと、命の灯りを消し地面にひれ伏
した。

「クレア!!!しっかりして!!!」

 竜を倒すと、すぐにクレアのもとへとかけよる。脈はまだあったが意識の
方は既に途切れていた。

「すぐに助けるから!!!」

 ネルはクレアを抱え、自分の足の傷を気に留めることなく医療知識を持っ
た部下のもとへと足を急がせた。






つづく




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