冷たい太陽 [真実]




「ネル様!どうされたのですか?・・・クレア様!!!」

「ああ!早くクレアを頼む!!!」

「はい!!」

 ネルの部下はすぐにクレアの治療にとりかかり出来る限りの治療を
施した。

 ネルはまだ任務を片付けてはいない為、クレアを心配しながらもその
遂行にあたった。自分の失態のせいで仲間であり親友でもあるクレアを
負傷させた自分の弱さに嫌悪感を抱きながら任務を片付けた。
 一週間以上かかる予定のその任務を彼女はほとんど眠らずにたった
四日で終えてしまった。
 そして、クレアのもとへと帰ってきてもまだ昏睡状態からクレアは帰って
はきていなかった。

「クレア・・・すまない・・・私のせいであんたが・・・・」

 ネルはクレアの手を握り締めたまま泣いていた。
その涙一粒一粒に嫌悪と悲しみを込めて・・・

 やがて、ネル自身も今までの疲れからか眠気が襲い瞳を閉じた。








 次の日の朝、目を覚ますと部下がネルの方へと寄ってくる。

「おはようございます。ネル様。」

「ああ、おはよう・・・」

 ゆっくりと顔をあげ自分もまた挨拶をする。
体にひどいだるさを感じることからまだ疲れが取れていないことを感じさせ
た。けど、それよりもクレアの状態を詳しく聞いていないネルにとっては、何
よりも彼女の状態を知りたかった。

「クレアの状態は今、どうなってるんだい?」

 ネルの表情が急に険しくなり部下に問う。

「クレア様の傷はかなり手痛いものでした。傷跡も残るでしょう。ですが、なんとか
命だけは助かりました。いずれ、この昏睡状態から目を覚ますでしょう。
・・・ただ・・・」

「ただ?」

 ネルは今からとても残酷な現実を聞かせられるのが直感でわかった。
そして部下がその現実を伝え始める。

「クレア様は・・・右足の神経が修復不能なまでに損傷されており・・・つまり・・
・・・もう、その両足で歩く事は出来なくなります・・・そして、もう片方の足を酷使
されるか、もしくは、使わないで筋肉が衰えて、やがて、歩くことさえ出来なくなる
可能性だってあります・・・」

「・・・・・・・・・・」

 嘘だと誰かに言ってほしい。
 その真実を誰かに否定してもらいたい。
 自分のせいで彼女を傷つけ、その足を奪っていった自分を・・・

「・・・そんな・・・クレアが・・・歩けなくなる・・・」

 ネルはその場にしゃがみ込み、部下の声にも耳を貸そうとはしなかった。
それから、再びクレアの眠るベッドまで行き彼女の目覚めを待った。
 やがて、日が沈み黒い世界が訪れると同時刻。
 しずかにクレアの瞼は上がっていった。

「・・・ネル・・・」

 ゆっくりとクレアが目を開け、側に居たネルの方へと視線を向け、小さな声
でその名を呼びかける。

「クレア!よかった・・・目を覚ましてくれたんだね!」

 何故だか、あれほど待ち焦がれていたクレアの目覚めに心から喜ぶ事は
出来なかった。

「うん。私も貴女の顔が見れて嬉しいわ。」

 クレアは笑顔でネルにそう言った。
この日は目覚めたばかりのクレアには真実を告げずに、回復の喜びやいつ
もの様な会話をして夜を越した。









 次の日、太陽はまた空高く昇り大地を光で埋め尽くす。
すっかり、日が高くなったころにネルは目を覚ました。

「おはよう。ネル。」

 先に目を覚ましていたクレアはベッドから床に布団を敷いて寝ていたネルを
見下ろしていつもの笑顔でネルに朝の挨拶をする。灰色の空に昇った太陽に
照らされたその笑顔はとても美しかった。

「おはよう。もう起きていたのかい。」

 ネルも笑顔で挨拶を返す。
だが、彼女の心の中は笑顔ではいられなかった。
今日は、クレアに真実を伝えると決めていたから。

 ネルが軽い朝食を作り、二人で朝食をとり少し会話をしてから、クレアの右足
の事を伝えようとネルの唇が動く。

「あのさクレア・・・あんたに伝えなきゃいけないことがあるんだ・・・」

 さっきまでのネルの表情とは違い、眉を上げクレアの方へと一層強い視線を
向ける。

「なあに?」

 クレアは微笑んだまま聞き返す。

「・・・あんたの右足は」

「もう動かないんでしょ?」

「えっ」

 自分が言おうとしていたことを先に言われ、ネルは驚きを隠せないでいた。

「知ってるわ・・・自分の体のことだもの。右足はもうだめなんでしょ。」

 クレアは窓の方へと視線を移し、全てを受けいれている様な口調で言った。

「すまないクレア。私のせいであんたが・・・ほんとうにすまない・・・」

 許してくれなくていいから、
 嫌われてもいいから、
 ただ、自分に出来る精一杯の謝罪をしたかった。

「貴女が気にすることないわ。」

 クレアは再び笑顔を見せネルに言う。

「だけど・・・私に出来ることがあったらなんだってするよ。」

 ネルがそう言うとクレアの表情が変わった。

「そう言ってくれると思っていたわ。・・・だから貴女には・・・」

 さっきまでの笑顔とは明らかに違う冷たい笑顔に変わり、これからのネルの
存在意味とその役割、そして、クレアのネルに対する自分の気持ちをその笑顔
を崩さぬまま告げた。

「イヤとは言わせないわ・・・ネル・・・」


 その日からネルとクレアの間にある何かが変わった。
 それが、一ヶ月前の出来事だった。














 ねえ、ネル・・・

 私は貴女とずっと親友でいられると何年か前まで思ってた。

 だけど、いつからか私の貴女を見る目が変わり始めていることに気づ
いたの。

 それが”恋”だって気づくのに時間はかからなかったわ。

 貴女があの日連れて来た青い髪の小柄な青年と、金色の髪の大きな男性・・・

 あの人達と行動を共にするようになってから、貴女は私の所へ来るたびに
あの大きな男性、クリフさんの事ばかり話していたよね・・・

 その時から、もう私の側から貴女が居なくなるんだって感じてた。

 やがて、貴女はその人達ともっと大きな・・・私達の戦争が小さな出来事の
様に思えるくらいの大きな戦いへ行った。

 そして、貴女が帰って来ると私に話してくれたわよね・・・

 この国が落ち着いて、あの人の仕事が落ち着いたら一緒に暮らすんだって

 そのことを話しているときの貴女の表情は私が今まで見たことの無いような
ものだった。幸せそうな・・・

 その時、貴女は私の側から完全に離れていくって思った。

 小さいときから、貴女は私より一歩前を歩いていて、私はそれに追いついて
隣を歩こうと努力してた。

 でも、もう貴女の姿が見えなくなってしまうわ・・・

 だから・・・

 貴女がいつか、誰かのもとへと飛び立つためのその翼を、二度と広げれない
様に私がバラバラにして千切ってあげる・・・
 
 そして、貴女をこの鎖に繋いでおいてあげるね。
 私の側から何処へも行けない様に・・・

 
 私の右足の事は、私がこうなる様に仕向けてたって事を貴女が知ったら・・・

 貴女は私を軽蔑する?

 貴女を手に入れられるのなら、この右足くらい失ったって・・・
 何を失ったって構わないのよ・・・ネル・・・











つづく





 


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