冷たい太陽 [痛愛]




 この部屋は狂っている・・・
 私はそこに自ら足を向けここにいる。
 今夜もまた・・・狂った行為をしている。
 昔からの親友であるこの子と・・・
 嫌いじゃないから?好きだから?
 ・・・嫌いだったらこんなことするはずない。
 だけど、私には私と同性であるこの子をそれ以上に見ることが出来ない。
 だから、私にはこの行為が苦しくて仕方が無い。
 それでも、それが私に与えられた罰であり、この子が望んでいるのなら
 私にはそれを止めることは出来ない。
 私達は今でも親友なのかい?・・・クレア・・・




 ベッドにはクレアによって弄ばれたネルの体が力なく横たわり、
その行為によってまだ塞ぎきらないクレアの傷口から漏れた血液
が白いシーツに散乱していた。
冷たい光を放つ月がその光景を映し出していた。

「・・・綺麗よ、ネル・・・」

 ベッドの脇に腰を掛け、ネルを見下ろしクレアが囁く。
その瞳には「正気」という言葉も「狂気」という言葉にも当てはまらない
ような不思議な雰囲気が漂っていた。

「・・・ねえ、クレア・・・」

 月が映る窓を無心な表情でネルはクレアに力の無い声で言葉を投げる。

「なあに、どうしたの?」

 クレアはネルの髪をやさしく撫で上げ言葉を返す。

「明日は・・・任務で来れないんだ・・・」

 嘘。
もう、任務なんて無い。
すでに精神的に疲れているネルは無期限の休暇を与えられていた。
精神状態が回復すれば復帰することになっているが、この生活が続く
限りネルの精神状態が回復することが無いだろう。
そして、クレアも二度とクリムゾンブレイドとして活躍することは無い。

 明日、クレアのもとへ行けない本当の理由は永い間待ち焦がれてい
た大切な人との再会であったから。

「・・・わかったわ。」

 クレアはそう答えた。その透き通るような声は寂しげであった。








 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ★ ☆


「待たせちまったか?」

「ううん。そんなこと無いよ。」

 クリフがこの星に到着したのは日も沈みそうなくらいの時刻だった。
 久しぶりの再会。いつもならもっと嬉しくて何よりも大切な時間だった。
けど・・・今日はなんだか違った。
確かに、「嬉しい」という気持ちもあるのだが心の底にはもう一つの「負」
の感情もあることを感じていた。
そして、その原因がなんなのかもわかっていた。

 クリフが乗ってきた小型の星の船は人目に付かない場所に止め、この
星に滞在出来る一日か二日の僅かな時間をその中で過ごしている。




 この小さな星の船にある簡易キッチンに包丁を叩く音が響く。クッキング
ヒーターの使い方も、クリフの好物もわかっていた。そして、料理が出来あ
がり、それをクリフの待つテーブルに置きネルも席に着く。

「お!うまそうだな!それに、俺の好物まであるじゃねえか。」

 クリフは嬉しそうに言う。一緒に行動するようになって最初のころは、この
笑顔がネルにとって特別なモノではなかったが、時間を重ねるうちに、この
笑顔が自分にとって特別なものになっていった。

「味はどうだい?」

 料理を勢いよく口に運ぶクリフに言う。

「おう。うまいぜ!さすがはお前が作ったモンだぜ。最近は保存食みてーな
モンばっかだったからな。」

「あんたも、仕事が大変みたいだね。」

 ナイフとフォークを上品に使いネルは心配そうに言った。

「まーな。だが、それもあと何年もすりゃ落ち着くさ。そうすりゃ、このうまい
飯も毎日食えるってワケだ。」

クリフは料理を口に運ぶ手を止め、ネルの瞳をまっすぐに見て言う。

「・・・ああ、そうだね。楽しみにしてな。」





 そして、二人は夜を迎える。
その「愛」を「カラダ」と「カラダ」で確かめ合う。
本来ならば、この上なく甘美なはずであるその時間が今日は少し苦しか
った。
 クリフの腕の中で、その「愛」を受け止めるネルは体が熱を持ち、もっと
快楽を要求するのと反比例するように心の中は痛く苦しくなっていった。




私のせいでクレアは色々なモノを失くした。
私が奪ったんだ・・・
私は罪人なんだ・・・
だけど、私はこの人と「幸せ」を掴もうとしている。
あの子から色々なモノを奪って、
私だけが幸せになろうとしている・・・
私にその権利は本当にあるの?




「楽になりたい?」・・・楽になりたい
「楽になりたい?」・・・楽になりたい
「楽になりたい?」・・・楽になれない




 そのまま夜は、ベッドの中で色々と語り合い眠ることなく朝を向かえ、
日が昇るのと同じくらいに眠りについた。
目が覚めたのは日が降りはじめるくらいの時間だった。
 クリフは仕事の為にまた別の星へ向かうことになっている。
ネルに持たせた文字の送受信しか出来ない通信機にまた連絡を入れる
ということを伝え、クリフはネルのもとを去っていった。

 それからネルは日が沈むまで、何をするわけでもなくクリフが去り、また
会えない寂しさと、これからまた始まる「償い」の時間を待つ「重さ」を胸に
抱え、ただボーっと時間を潰していた。




______夜。
 今夜もまた、あの狂った部屋へ足を向ける。
静まりかえったこの廊下の雰囲気にも慣れてしまった。
そして、ドアを開け部屋に入る。
いつもと同じように部屋の中にはランプが一つ灯されているだけ。その
ランプに照らされたクレアが杖をついて立ち上がりネルの方へと近づいて
きた。

「・・・昨日は何をしてたの?」

 クレアが無表情を崩さずにネルに言う。

「昨日は任務だよ。前にも言ったじゃないか。」

 ネルもまた表情を崩さずに嘘を言う。

「ふうん。どんな任務?あの男とどんな任務をするの?貴女からあの男の
においがするわよ。」

 クレアはネルの耳元で小さく囁く。

「・・・・・・・・・」

 嘘がばれたと思うとネルは黙り込んでしまった。

「・・・フフ。ほらね。やっぱり嘘だったんだ。貴女が嘘をついても私にはすぐに
わかるわ。その嘘がばれたときの貴女は本当にかわいいわね・・・
・・・だけど、今日はそれが、なんだかムカつくわ・・・」

 ネルは過去に何度か聞いたことがあるクレアの怒ったときの凍てつくような
冷たい声に怯えることしか出来なかった。

「・・・まあ、いいわ。ねえ・・・夕食をすませたら外へ出ましょう。」

「外?」

「ええ。・・・しばらく出ていなかったから今日は出てみたいと思ったの。」

 その要求にネルは「いいよ。」と言って了承した。
そして、これがまた違う未来をもたらすことになることを、まだ誰も知らな
かった。





つづく







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