約束の無い…、未来。






 夜空を見ている。

 無造作にちりばめられた星々が、この夜空に広がっている。

 星の世界。
 
 このシランドからは、どんなに、どんなに、手を伸ばしても決して届くことの無い
場所。

 そこは・・・・・・・彼が帰る場所。

 この戦いが終われば、自分をこの地上に残し、彼は、自分に背を向け、また、
あの空へと、帰っていってしまう。






 シランド城の、白露の庭園。
ネルはその場所で、手すりに手を掛け、夜の冷たい風を身に浴びながら、夜空
に浮かぶ星々を、見上げていた。











―――全てが終わったその後に。あの空に広がる世界へ、彼とまた行けたのな
ら・・・。
 そんな願い。そんな願いがどれほど、愚かなものなのかは、わかっている。
そんな未来はありはしないんだと、自分に言い聞かせては殺していく。
だけど、どんなにその願いを殺しても、また、自分はその願いを生んでいく。

 たとえ、彼が”オレと一緒に行こうぜ”と、無理矢理にでも、自分の手を取ってく
れたとしても・・・自分は、その手を振り払ってでもこの地に残るだろう。
本心とは、裏腹に・・・

 彼が、あの世界で果たさねばならぬ使命があるように、自分にも、この国を守
らねばならぬ使命がある。
 だから・・・・・・・そんな未来なんて、ありはしない――――











 ネルは夜空に広がる世界を見ながら、その先にある形の無い未来を頭の中で
思い描いていた。彼の隣に居ることの出来ない未来を。



「な〜にしてんだ?こんなところでよ。」

 突然の背後からの声に、ネルは振り返る。
振り返らずとも、その声の主が誰だかわかってはいたが。

「クリフ・・・・・・・あんたこそ、何してんのさ?」

「オレか?ぶらぶら歩いていたら、お前を見かけたもんでな。で、お前は何して
んだよ?」

 両手を横に広げ、クリフが言う。

「ああ。・・・星を見ていたんだよ。今まで、ゆっくりと星を見上げることなんて出来
なかったからね。」

 クリフから視線を逸らし、頭上に広がる星々へと視線を移し言う。
それに続いて、クリフもネルの元へ歩み寄り、隣に並び言う。

「オレも、地上から見る星は久しぶりかもな。」

 小さな言葉の表現の違い。
その小さな違いの中に、自分と彼との、測ることの出来ない距離を感じる。

 今はこうして、並んで同じ視点からこの星々を見ることが出来るけれど、近い
うちに、遠く離れた位置から、違う視点で同じ星々を見ることになるんだろうと思
うと・・・・・・。
こんなにも、綺麗な星空が、悲しく見えてしまう。








「フェイトから聞いたぜ。ここの大神官の娘さんと、アーリグリフの王様が、近々
結婚するんだってな。政略結婚だって世間様じゃ言われてるらしいけどよ。」

 クリフが、星空からネルの方へと視線を向け言った。

「ああ、知っていたのかい。しかたないさ、誰だってそう思うよ。」

 続けるネルの言葉を、クリフは黙って聞いてる。

「でもさ、政略結婚だって言われても、本人が幸せならそれでいいんだよ。」

 昼間の、アーリグリフの王妃になる友人の言葉を思い出す。
”あの人の傍に居られる…。ただ、それだけで私は充分幸せなんですから。”
”あの人の最も近くで、あの人のことを一番に思っていられる…。ただそれだけ
でいいんです。”
友人はそう言っていた。
 一方的な想いだとしても、傍に居られるだけで幸せなんだと。

 自分達はどうなんだろう。
想いが繋がっていても、互いの傍に居られることの出来ない自分達。

 隣国の王と友人。自分達。
どこか、似ている。
自分達にあって、あの二人に無いもの。
あの二人にあって、自分達に無いもの。

 何かが、一つ。・・・欠けている。

「まあ、大神官の娘さんのことはよくは知らねえが、幸せだっつってんなら、オレ
たちが、とやかく言う筋合いなんて無ぇからな。」

 クリフは、どこか割り切った感でそう言う。
ネルは”そういえば、こいつはロザリアのことは知らないんだっけ”と思い、クリフ
にロザリアのことについて、説明を交えながら紹介をしようと思い、口を開こうとす
る。
 けど、言葉が口から出ようとする前に、クリフの方が先に口を開いた。



「お前は、どうなんだよ?」

「え?何がさ?」

 クリフの言った言葉の意味が分からなかった。分かるはずもない。
だから、聞き返した。

「いや、お前は花嫁とかそういうのには憧れてんのか、どうかと思ってよ。」

 いきなりの質問。
その質問の内容に驚いた。まさか、そんなことを聞かれるなんて。
それでも、星空を見上げて、感傷的になっていたせいもあってか、正直にその
質問に対する答えを、述べる。

「確かにね。昔は、憧れていたよ。・・・・でも、今のこの道を進むと決めたときから
そんな憧れ、捨てちまったよ・・・。」

 クリフから視線を逸らし、腕を組み、花嫁に憧れていた昔の自分をあざけ笑うよ
うに、鼻で”フン”と笑ってみせた。

「よし!それじゃ、ちょっとオレについてこい!!」

「えっ!?」

 突然。
クリフの大きな手が、ネルの細い手首を掴んで引っ張り、何処かへ連れて行こう
とする。





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