「着いたぜ。」

「あんた、もう少し優しく引っ張ることは出来ないのかい?」

「ああ、すまねえ。ちょっと、急いじまったみてえだな。」

「別にいいけどさ・・・・・・・・。それで、あたしを此処に連れてきて何をしようって
いうんだい?」

「ん?ああ、ちょっとな。」






 クリフがネルを連れて来た場所。
シランド城の中央に位置する、大きな礼拝堂。

 今は夜で、人は誰も居らず、灯りも灯ってはいない。
灯りとなるものは、天井の窓から入ってくる弱々しい月明かりだけ。
静かで、二人の声が、壁に響いてこだまする。
月明かりが、礼拝堂に置かれた石像や、装飾物に反射して、昼間以上に神秘さ
を放っていた。

 クリフが祭壇の方へと歩む。それに続いて、クリフが何をしようとしているのかを
考えながらネルも、歩む。
 そして、クリフはネルに向けていた背をくるりと返して、言う。






「やってみねえか?結婚式ごっこをよ。」

 その言葉を聞いて、思考回路が一瞬止まったネル。
なんて、子供じみたことを言い出すのだろうこの男は。
そう思って、ため息を一つ漏らす。

「あんたねえ、何を言い出すんだい?そんな子供みたいなことをさ。・・・まあ、あ
んたは、たまにそういう子供みたいなところもあるけどさ。」

「で、やんのか?やらねえのか?」

 真剣な眼差しで、クリフはネルに尋ねる。









「・・・・・・・しょうがないね。付き合ってあげるよ。」

 呆れたような顔で、了承した。
おせっかいな部分のあるこの男のこと。昔、花嫁に憧れていたと言った自分の
ために、こんなことをしようとしているのだと考えることにしてみれば。
悪い気はしなかった。むしろ、嬉しいとさえ感じた。


「よし!やっぱそうこなくっちゃな!!・・・で、あ〜。なんつったっけ?あの、神父
が言うだろ?」

 クリフは神父が言う、儀式的な台詞を思い出そうとする。
しかし、その言葉を思い出せず、後頭部を手で押さえ、苦笑しながら、クリフは
ネルに答えを求める。

「”汝、この女性を妻として、いかなるときも、死が別つまで愛すると誓いますか
?”・・・・・・・・とかのことだろ?」

 腕を組み、自信があるような表情で、ネルは答えを与える。

「あ〜それだ、それ。・・・・しっかし、よく知ってんな。」

「あんたが、こういうことに関して無知なだけだろ?・・・それに、あたしが小さい
ときには、クレアたちとよくやっていたからね。お嫁さんごっこをさ。」



 そっと、ネルは、遠く置き去りにしてきた過去の記憶を手繰り寄せる。
自分が、まだ幼く小さいころの、今の道を進むなんて考えていなかったころの、
幼馴染達と、お嫁さんごっこをして、遊んでいたころの記憶。

 あのときはまだ、誰かと生涯を誓うことよりも、ただ、綺麗な花嫁衣裳と、華や
かな結婚式という儀式に憧れていただけかもしれない。
 相手の男性の姿は無く、その代役として、幼馴染が相手役を務めていた。
あの時は、相手になって欲しいと思う、男性の姿を想像することはなかった。

 だけど今は・・・今は、違う。
その姿を容易に、はっきりと、思い描くことが出来る。






 この道を進むと決意したときから、『女性』としての自分を殺め、胸の奥底へと
深く沈めた。これからは、『女性』としてではなく『兵士』として生きるんだと。

 そして、何年後かに、目の前に居る男と出会って。
その男性は、殺して胸の奥底へと深く沈めた『女性』としての自分を。
蘇らせ、引き上げてくれた。



 目の前に居る男こそ、相手となって欲しい男性の姿と、少しの狂いも無く、ピッ
タリと、その姿が重なる。












「んなら、バッチシだな。まあ、神父役をするヤツが居ねえから、代わりにオレが
お前にあの台詞を言うから、お前はオレに言えよ。」

 クリフは、咳払いを一つついて、改まった表情で言う。

「え〜、あ〜。なんじ、このだんせいを、いかなるときも、しがわかつまであいす
るとちかうか?」

 照れを隠し切れない表情と、口調で、クリフは言った。
こんなことをやり始めた自分を恥ずかしく思って、後悔しながら。






「・・・ああ。誓うよ。」

 照れを隠し切れていない表情が可笑しくて、少しの笑いを浮かべながら”遊び”
だと割り切って、ネルは答えた。

「よし、それじゃ、次はお前の番だ。」

「ああ。それじゃ、言うよ。・・・・汝、この女性を妻として、いかなるときもあいす
ると誓いますか・・・?」

 ネルも、クリフと同じように照れを隠し切れない表情と、口調で言った。
そして、クリフの表情が変わった。





「・・・・・・・ああ。誓うぜ。」





 ネルの瞳を見つめる、クリフの口からそう発せられた瞬間。

 一瞬だけ、ネルは、夢を見た。
言うならば、目の前の男が夢を見せてくれた。


 花嫁衣裳を纏った自分の隣に・・・彼が居る、夢。


 その夢に続いて。
 あの星の船の、彼が座る席の隣に自分が立ち、同じ視点から星の世界を見て
いる、夢。
 小さな食卓を、自分と彼と・・・そして、自分達に似た、小さな幼い子と3人で
食卓を囲む、夢。




 夢のままで終わる、夢。





 幾つもの、未来の場面を頭の中で創りあげていく。
だけど、それらの場面が、かなわぬ願いだと、ありもしない未来だと、気づいては
溶けていき、・・・・・・液体となって、瞳に滲み出ていく。

 一人の女性として、涙を流した・・・。








「おい、どうしたんだよ?お前らしくもねえ、いきなり涙流すなんてよ。」

 心配そうな顔をして、クリフはネルの頬を伝う雫を、指で拭おうとする。
・・・・・・・月の灯りが、その雫に反射する。

「なんでもないよ!!」

 ネルは怒鳴るようにそう言って、クリフの指を振り払い、クリフから顔を逸らす。

「そうか・・・・・・・・」

 それ以外の言葉は思いつかなかった。
ネルの涙の意味を、クリフには予想が出来ていた。
その予想が正しいのなら、自分も同じ気持ちだった。

「ねぇ、クリフ。こんな子供みたいな遊び、もう止めないか?別っているだろう。
あたしたちは」

「ネル。」

 横を向いたままのネルが続ける言葉を、聞きたくはないと言うかのように、
クリフが名を呼んで、続きを断ち切る。






「オレは、ここに居る。」

 クリフはそう言って、左手でネルの肩を力強く掴み、右手で、後頭部に優しく
触れ、ネルの視線を自分の方へと向ける。

「・・・・・・・・・ああ、そうだったね。」

 こんなにも、今は、近くに居るのに、離れいく人を見つめる。
胸の奥から、暖かい何かが、内部から心を締め付ける。





「・・・・・・いつかよ・・・・」

「何だい?」

 それ以上、言葉は出てこなかった。

―――・・・いつか、お前に似合う花嫁衣裳と、指輪を贈ってやるよ・・・―――


「・・・・・、いや、なんでもねえよ。」










 月明かりだけの、闇に包まれた礼拝堂で。
・・・・神様さえ、祝福してはくれない、静かな、この場所で。


 二人は、唇を重ねた・・・。


 沸きあがる拍手も、祝福の鐘の音も、・・・無い。
神様さえも、祝福はしてはくれない。
誰の記憶にも残ることは無く、行われた神聖なる、儀式。







 本来なら、この口付けは、未来を約束するもの。


 だけど、この二人には、約束された未来は・・・・無い。
 約束することなんて・・・・出来はしない。

 ある未来は、二つの分かれ道を、それぞれの道を、別々になって歩く未来。








 神父の居ない。
 祝福する者の居ない。
 花嫁衣裳も指輪も無い。
 闇に包まれた、誰も居ない礼拝堂での、
 非公式な結婚式は、・・・幕を閉じた。







おわり
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あとがき
『スウィートノーベンバー』(キアヌ・リーブス主演)を観ていて、突然書きたくなった、悲恋もの。
痛暗い部屋があるように私は悲恋ものが好きです!!書いてるときはそうでもなかったけど
パソに打ち込んでるときに恥ずかしくなってきたわい。なんちゅ〜もん書いとるんじゃい!!
現実に、こんなことしてるカップルがいたら、ミサイルを打ち込んでやりたいですね(笑)
考え方によっては、クリネルは悲恋カップルだったりします。奥が深いですよクリネルは!
障害がありまくりですよ。クレアとか。(笑)色々な障害を乗り越えて末恐ろしいカップルに
なってください!
もちろん、この部屋のクリネルは最後にはハッピーエンドですので、安心してくださいね^^
(何を)・・・・それよりも、リクエスト小説・・・アップしなきゃなきゃ(苦笑)