ゆめはまたゆめ







 草木は眠り、お月様もすごいだるそうな顔で静かな大地を照らし、鳥たちは
世界征服の計画を立てながら目を閉じ、田舎村の暴走族はラマに乗って街を
駆け巡りだす午前零時。変態集団もおねんねの時間だった。

「それじゃあ、おやすみなさいネル。」

「ああ。」

 マリアとネルはそれぞれ荷物入れから、クマしゃんとカエルしゃんを取り出
し、それを胸に抱えながらそれぞれのベッドへと潜り込んだ。
 今日は、クリフと何をしている夢を見よう。そんなことを考えながらマリアは
目を閉じたその時。

「あ、そうだ。」

 隣のベッドに不細工なカエルしゃんを抱えながら潜っているネルが、突然何
かを思い出したかのような感じで声を出して、体を起こした。

「何?どうかしたの?」

 それに続いてマリアも目を開け、何事かと聞いてみる。

「あ、そんなに大したことじゃないさ。あんたは疲れているんだろう?あたしに
気にせず眠っておくれよ。」

「いえ、そう言うわけにもいかないわ。リーダーとしてあなたが何をするのか
見届けなくてはいけないわ。それに…、あなたのことはもっと知りたいしね。」

 マリアはそう返す。実際、たしかに朝から晩まで太鼓を叩くゲームをしてい
たので疲れていて、ネルの言うとおり未開惑星人ごときの行動なんかそんな
もの無視して眠りたいという気持ちはあった。けど、自分が眠っている間に一
人で何をしているのかを考えると気になって眠れそうに無いので、ここは彼女
の行動を見守ることにした。

「そうかい?それなら、あたしも遠慮なく始めさせてもらうよ。」

「ええどうぞ。」

 ネルはそう言って、荷物入れの中から手の平サイズのカエルしゃんを取り出
しそれを自分の前に置いた。マリアは何が始まるんだろうと大した期待も不安
もなくそう思いながら、ただ見つめていた。
そして、ネルは口を開き始める。

「…アペリスさんアペリスさん…今日も無事に過ごせてハッピーでした…なむ
なむ……これもアペリスさんのおかげですありがとうベリベリサンキュー…な
むなむ。」

 目を閉じ、手を合わせながらアペリス神様に見立てたカエルしゃんに向かっ
てネルはお祈りと感謝の言葉を捧げる。

(お祈りか…熱心なことね。私は絶対にああなりたくないわ)

 マリアはネルの行動がただのお祈りだと確認し、見ていても時間の無駄だ
し自分の頭も悪化しそうだったので、熱心にお祈りを続ける真面目な田舎惑
星人なんか無視してさっさといい夢を見ながら明るい明日に備えて眠ろうとし
た。
 しかし、眠ろうとしてもネルのお祈りの声が微妙にうるさく気に障ったので
眠ることは出来なかった。それから10分ほど経ってやっとお祈りが終わった
ようだ。

(やっと終わってくれたようね。さあ、さっさと寝ましょう)

 マリアはやっと安眠の時が訪れた!と、心の中で盛大なパレードが開かれ、
さあ気合い入れて眠ろうとするころ、ネルは荷物入れから一台のラジカセを取
り出し、再生スイッチを入れた。


ボンボコボンボコ…

 スピーカーからは未開惑星っぽく民族的な打楽器を叩く音が静かに流れ出
し始めた。

(まだ何をする気?)

 マリアの中で微妙な不安感が生まれ始めた。それは、スピーカーから流れ
る打楽器の音量が上がっていくと比例するように増していく。
そして、落ち着いた打楽器の音が一気に激しいビートへ変わると同時に…














「ア〜ウンババウンババアイヤ〜サッサ〜」

「やかましいわ!」


 しかし、ネルの意識は何処か遠くの世界へ行っているようでマリアの声は
届かず、ただ奇声と打楽器の音がこの部屋に響くだけだった。

「チョ〜ケチョケチョアバババウンバ〜ウンバ〜」

 さらにネルは体全体をウニョウニョクニョニョさせながら奇声を発する。マリ
アはずっとその声と目の前の現実に耐えながら、ただ見守ることしか出来な
かった。

 なんで見守り続けなきゃいけないんだろう?そんな疑問が頭の中を駆け巡
っていたころ。

「ア〜ウンババッバッバ〜キャキュバ〜カイワレダイコン〜〜〜〜!!!!
クリフとあたしが結ばれますように。おわり。」

「恋まじないかよ!!」

 しかも、そんな姿を見たらクリフも十中八九引くわよ!と心の中で思ったが
なんとなく言えなかった。

「どうだい?」

「何が?」

「あんたもやってみるかい?よければ教えるけど…」

「絶対嫌よ!」

「そうかい……それじゃ、次は…」

「まだあるの?」

 しかし、やはりマリアの声はネルの耳を通り抜け何処かへ消えていき、ネ
ルは再び荷物入れから何かを取り出した。納豆だ。
そして、それをお気に入りのカエルしゃんのマスコット入りの皿に流し込んで
“フン、フン”と鼻息を荒くしてかき混ぜ始めた。

「おえ〜納豆臭いーーーーーーー!!」

 食卓ならまだしも、寝室に納豆のにおいはかなり不愉快だった。なんだか、
そのにおいを嗅いでいると体中がネバネバしてるような錯覚に陥る。

「それじゃ、いただこうかね。」

 ズルズルズルズル〜キュ〜〜〜〜〜〜スポン。
と、下品な音をたてて大量の納豆を口の中へと流し込んだ。納豆独特のにお
いがネルを中心に広がり始め、むしゃむしゃと納豆を噛み砕き、ゴックンと飲
み込む。

「うん。いいんじゃないかい。」

「よくないわよ!くせぇよ!だいたいなんで納豆なのよ!」

 鼻をつまんでマリアが手をぶんぶんさせながら講義する。

「なんでって…、夜納豆は美容にいいんだよ。」

「健康にいいとなら聞いたことあるけど…。何?美容を気にするのはやっぱり
クリフの為なの?」

 マリアが即席で用意した消臭剤を自分の周りに10個ほど置きながらそう言
った。

「…聞いてくれるかい?」

 いきなりネルが改まった感じでそう言う。

「嫌よ。もう私は寝るわ。」

 もうつきあってられない。これだから未開惑星人は。そう思いながら再びク
マしゃんを抱えベッドの中へと潜り込むマリア。

「あたしは生まれたときから、この職業につくことがすでに決められていた…」

 と、マリアの言葉を無視するかのように一人で語り始めるネル。マリアは一
生懸命クリフに教わった狸寝入りを決め込むことにした。

「…だから、あたしには生涯そんなこと縁のないことだと思っていた…ゲップ
……あ、ごめんよ。」

 ネルがげっぷをしたことによってさらに納豆のにおいはレベルを上げたがマ
リアは必死にこらえた。

「…それでもあたしだって女さ。9歳の時には初恋だって経験したさ…」

(初恋!!うわ〜にあわね〜!)

 マリアはそう口に出して言いたいのを必死にこらえ、さらには噴出したいの
も必死にこらえながら、気づかないうちにネルの語りを一生懸命聞いている自
分がいることに気づいた。

「…ああ、それでその相手っていうのが……あ、足の爪そろそろ切らなきゃい
けないね……」

(足の爪なんかどうだっていいわよ!!それよりその相手って誰?やっぱりク
レアなの?まあ、性格も性別もちがうけどクリフとは同じタイプの人間よね)

「…で、その相手っていうのが……」

(うんうん!クレアでしょ?)

「……あ、明日は週刊マーガリンの発売日だね…」

(っ〜〜〜〜〜〜!!!!)

「ラッセルさ。」

(ラッセル!!!!!?????うわ〜〜〜)

 限界だった。けど、いまにも自分の口から噴出しそうな何かを根性でマリア
は必死にこらえた。何故ラッセル?何ゆえラッセル?どうしてラッセル?マリ
アの中の好奇心と探究心が咆哮をあげる。

「まあ、それは置いといてだね…」

(置いとくのかよ!)

 マリアは腕の中のクマしゃんに頭突きを何度も喰らわせた。

「…それであたしも23になってついこないだクリフという筋肉に出会い、思
ったさ………あたしもお姫様になれるんだって…」

「プッ…(お、お、お、お姫様〜〜!!??何考えてるんもかしらこの未開惑
星人は…ていうか……うわ〜〜〜)」

 ついマリアの口から笑いが一雫こぼれ落ちた。何をどう考え思えばいいのか
マリアは答えを失った。もう、クマしゃんに頭突きを喰らわせるしかなかった。
と、そのとき。

ぱっぽーぱっぽー

 鳩時計が一時零分の時刻を伝えた。

「あ、もうあたしは寝るよ。」

 と、鳩時計の鳴き声と同時にネルはカエルしゃんを抱え布団の中へ入り込ん
で、納豆のにおいが混じった小さな寝息を立て始めた。

 マリアもなんだか自分が馬鹿みたいに思えてきて、さっさと眠ることにした。
この夜、マリアが見た夢は。お姫様の格好をしたクリフが自分に大量の納豆を
持ってくる夢だった。最悪だった。






























 ぐーすかぐーすか…ぴー…。
 納豆臭い息を吐きながら眠るネルの腕に抱えられているカエルしゃんが、
邪魔そうにネルの腕を返しそこからすり抜け、彼女の顔を踏みつけてベッド
の外へと出る。
 ベッドの外へ出たカエルしゃんは煙草に火を付け一服決め込んでから、ク
リフの部屋の方へと歩いていった…。








 翌朝。
クリフが目覚めるとベッドの傍のサイドテーブルには、まずいシチューと、
からいケーキと、まずいデザートと、激あまカレーと、やすいさしみと、元
牛乳が『いつもお疲れ様。これを食べて栄養つけておくれ。ばいネル』と
と書かれた手紙と一緒に置いてあった。

「…何だよ。結構カワイイとこあんじゃねえか。」

その日、クリフは倒れた。
原因は食中毒らしい。
ネルは食わず寝ずでクリフを看病した。

何故か、二人の間に愛が芽生えた。







おしまい









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久々に短編ギャグ…ネルファンの方すいません。
アルベルとフェイトの話も考えていたり…