ゆらゆらり






 街外れの、小さなファクトリーから、熱くなった鉄鉄を叩く、重く高い音が、
夜の静かなシランドの街に揺れる。
 そのファクトリーの中で、他のクリエイター達が帰った後も、ただ一人でク
リフはハンマーを大きく振り上げて、鉄を鍛えていた。
 そして、もう一人…。

「クリフ。」

 名を呼ぶ。
だけど、その声は鉄を打つことに熱中していて耳に入らないのか、鉄の音
にかき消されてしまうのかクリフは気づかない。
ひたすら、ハンマーを振り下ろし、大きな音を立てる。

「クリフっ!!!」

 もう一度、声を上げて名を呼ぶ。
鉄の残響に混じった声がクリフの耳に届いて、振り上げたハンマーをピタリ
と止め、ゆっくりと下ろして、声が聞こえた方を見やる。

「よう。マリアじゃねえか。いつから居たんだ?」

「”いつから居たんだ”じゃないわよ。今何時だと思ってるの?」

 鉄に代わって、マリアの少し怒り混じりの声が響く。

「あ〜、いやな。もう少しですっげえいいのが出来そうだったんでよ。んで、
気づいたらこんな時間になってたって訳だ。」

 苦笑しながらも、何処か楽しそうな表情でマリアに言う。
そんなクリフの性格を知ってか、何かを諦めたような、呆れた表情に変化
するマリアの表情。

「わかったわ。待っててあげるから、早く終わらせてね。」

「待っててあげるってお前…。別に帰って寝てもいいんだぜ?もう少しかか
りそうだしよ。」

「べつにいいわよ。私が待ちたいだけだから。」

 そう言ってマリアは、近くにある少し薄汚れたソファーに腰を下ろして、目
の前に立つクリフを、上目遣いで見上げる。

「へいへい。…待ってな。すぐに終わらせっからよ。」

 クリフはマリアの頭にそっと、大きな掌を乗せて軽く撫でてから、鉄を打つ
定位置に戻り、再びハンマーを振り下ろす。










 それから、どれくらいの時間が経ったのだろう。
作業を終えたクリフは、手際よく道具などの後片付けをして、ソファーで自
分を待っているはずの、マリアの方へと歩み寄る。


―――…へっ。寝てやがる。


 耳を澄まさないと聞き取れないくらいの寝息。
まだ幼さの残る、クリフにとっては何年も見続け、変わらないままの無防備
な寝顔。

 久しぶりに、彼女の寝顔を見た気がする。
最後に見た日は、いつだっただろう。
色々なことがありすぎて、それさえも思い出せない。

 眠っているマリアを起こそうと肩に手を掛けるが、あまりにも心地よさそう
に眠る寝顔を見ていると、起こす気も引けたので、彼女を眠りから覚まさな
いようにそっと、背におぶった。





 外に出ると、昼間とは違った、少し肌寒い風が吹いている。
街に並ぶ家々の灯りは消えており、宿までの道を照らす灯りとなるものは、
空に浮かぶ半分欠けた月と、僅かな数だけ輝く星々だけ。

 中央の通りに差し掛かったころ、クリフは足を止める。

「起きてんだろ…?」

 自分の背で眠っているはずのマリアにそう囁く。

「………ばれてた?」

 クリフの背に密着して、頬を彼の後ろ髪に密着させたまま、小さな声で返
す。

「あたりめーだ。オレを誰だと思ってやがる。」

「さあ。誰だったかしらね。」

 二人の声が、静まり返った街の、冷たくなった空気をそっと揺らしていく。
再び、クリフが鳴らすブーツの音が混じりだす。
その足音は、皆が眠る宿へと続いていく。

「ところで、起きてんなら自分で歩いたらどうだ?」

「ねえ、もう少し散歩しない?」

 クリフの言葉を軽く流して、甘えるような口調で、クリフの耳に言葉を流し
込む。

「お前をおぶったままか?」

「そうよ。これはリーダー命令よ。」

「……しゃあねえな。それじゃ、行くとするか姫さんよ。」

 クリフの足音が宿を通り過ぎていく。
冷たい風が、静かな夜の街を通り過ぎる。

 だけど、マリアは寒くはなかった。
クリフの大きな背中が盾になり、その体温が伝わってきて、少しも寒いと
は思ってはいなかった。

 ずっと、彼の背を見てきた。
彼が任務のために何処かへ行くときも、自分に背を向けていってしまう。
……自分を、置いたまま。
ずっと、その背に憧れていた。

今は、…自分とその背の間に『空間』は無い。




「しっかし、お前も重くなったな。」

「あら、レディーに向かって失礼ね。」

「わ〜るかったな。」

 まったく反省していないような口調でクリフが謝る。

いつか、自分が大人の女性になったら…、その時には。
だけど、いつになってどれだけ大きくなれば、彼に『大人の女性』として
見てもらえるのだろう。
だけど…、自分をそう見てもらえるその時には、彼の隣に違う誰かが居
るかもしれない。
……その時まで、待てはしない。






”好きよ…クリフ……”






 唇を動かしてみる。
誰にも…聞き取れないくらいの音声が生じる。
あまりにも、小さすぎるその声は夜風にさらわれて、彼方へと連れ去ら
れてしまった。






「………あと、一年経ったらな。」

 突然、返ってくるクリフの言葉。

「えっ?」

「あと一年経ったら、お前も20になって大人になるだろ。」


 耳に届いていた。
ほんの小さな声、夜風がクリフの彼方へ届けた小さな声。

「……あと一年経ったら、あなたはいくつになってるの?…だから、今。」

 そう言ってマリアは、後ろから抱きつくようにクリフの肩から腕を回し、
彼の胸の上で交差させる。

「…しかたのねえ姫さんだな。」

 困ったような口調で言うクリフ。
その言葉に、フフフ、と嬉しそうに微笑むマリア。


 宿へと帰るまでの、帰路につくほんの僅かな時間。
大きな背中の上で、マリアにとっての自分以外誰にもわからないくらいの、
ほんの小さな”幸せ”を感じていた。

 そして、その場所で、再びマリアは眠りについた。







おしまい



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あとがき
ほのぼの?ほんのり?…どうなんでしょう。
そういえば、ほのぼのとした作品て書いたこと無かったです(自分が書くと、バカなギャグか
重いのになる)。しかもクリマリとかの初挑戦
カップリング!!…わ〜い初めてだらけ。そして、失敗。
私的にクリマリ必需要素。
1、精神的クリフ受け。
2、がんばるマリア。
3、ていうか乙女マリア様!!
クリマリってなんだか結構特殊ですね。基本的に攻めキャラなクリフが受けに回ってしまうと
いう…深いよ…クリマリ。(クリ→マリとかだったら凄く痛い…痛すぎる!)
とりあえず置く場所が無いので不真面目小説に。

リクエストにそえたかどうかわかりませんが、自給自足だけじゃいたたまれないよ同志(勝
手に)のミサキさんへ。



実は2本立て